NOBE Laboratory
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偏屈な読書


 子供の時分は読書が嫌いで、とくに小説には殆ど興味がわかなかった。その反動か、最近のめり込むように特定の作家を集中的に読破するようになった。猟書の分野は限定しないよう心がけているが、傾向として近世から戦中までの範囲で綿密な調査の結果生まれた労作に感動することが多い。これらは日本あるいは世界の将来を考える上で冷静なビジョンを与えてくれた。また、関係する古書を漁るのも面白く、出版文化の奥の深さを知ることができる。
 また、書物は人間にとって明確なインデックスのついた外部メモリーだと認識している。情報を集約して手頃な大きさにまとめ、背表紙をつけて書架に並べるという発想は、変なIT化が進む世の中でも決して廃れることのないヒューマンスケールな情報集約法であると思う。そのため、自分の血肉としたい本は借りるのではなく買うべきだと考える。書架を眺めたり配列を変更したりしているうちに思いがけない着想を得ることも多く、最近は書籍を日常空間に機能的に並べる方法に腐心している。
 以下のリストは、十数年前から小生が年賀状に「昨年のベストテン」と題して掲載してきたものの一部です。小生を知っていただく「よすが」として、お伝えしたいと思います。「蛇足」は小生が腰巻きに書いてみたい惹句です。

読了年 書 名  著 者 発行年 出版社 蛇 足
2005 不道徳教育講座 三島由紀夫 1967 角川書店 才気溢れる饒舌と人間の本質を知ってしまった苦悩の韜晦。
2005 昭和史の決定的瞬間 坂野潤治 2004 筑摩書房 喧伝されているほど単純ではない戦争突入への道程。
2005 わが青春無頼帖 柴田錬三郎 2005 中央公論新社 いつか木賃宿で寝っ転がりながら読んだ黄ばんだ文芸雑誌の記憶。
2005 長英逃亡(上・下) 吉村昭 1984 新潮社 周到な脱獄と鬼気迫る逃走と潜伏の一部始終。そして呆気ない結末が。
2005 大佛次郎敗戦日記 大佛次郎 1995 草思社 慈愛に満ちた眼差しが記した終戦前後の社会の変容。
2005 軍艦長門の生涯(上・中・下) 阿川弘之 1982 新潮社 巨大な艨艟から定点観測された内外情勢と人心の激変。
2005 田中小実昌エッセイコレクション 田中小実昌 2002 筑摩書房 路線バスを愛するコミさんの軽妙なオトボケに彩られた鋭い人間観察。
2005 摘録劉生日記 岸田劉生 1998 岩波書店 好奇心あふれる偏屈者の克明な記録。神様と五目並べと角力がお好き。
2005 366日空の旅 ヤン・アルテュス=ベルトラン 2004 ビエ・ブックス 地球と生物の営みを鳥瞰し、象徴的な写真とキャプションに凝縮。
2005 千里眼事件−科学とオカルトの明治日本 長山靖生 2005 平凡社 一世を風靡した透視と念写の女史はその後「ラジウム」と渾名された。
2003 日本人の人生観 山本七平 1978 講談社 これぞ山本学の真髄。四半世紀前の著述は時代を経て輝きを増した。
2003 天狗争乱 吉村昭 1999 朝日新聞社 様々な大義が輻輳するなか、激烈な行動に打って出た天狗勢の去就。
2003 新訂福翁自伝 福沢諭吉 1978 岩波書店 見掛けによらず、見事な放埒ぶり。聖人君子を向こうに回して大立ち回り。
2003 生麦事件(上・下) 吉村昭 2002 新潮社 薩摩藩の苦悩と迷走。異人との折衝に始まり開戦、講和に至る顛末。
2003 草枕 夏目漱石 1929 岩波書店 芸術論を超越した「非人情小説」の極み。食わず嫌いを後悔。
2003 桜田門外ノ変(上・下) 吉村昭 1995 新潮社 幕末の複雑な離合集散に翻弄される水戸藩士の奮闘。
2003 赤線跡を歩く 木村聡 2002 筑摩書房 辛うじて邂逅した昭和の残照。非日常を通して日常が見えてくる。
2003 自叙伝・日本脱出記 大杉栄 1971 岩波書店 古今のカルト、過激派リーダーに共通する才能、鬱屈、そして奔放。
2003 鳴雪自叙伝 内藤鳴雪 2002 岩波書店 俳人が見た幕末から明治への変転。意外にも静謐な激動の時代。
2003 下町酒場巡礼 大川渉他 2001 筑摩書房 不覚にも暖簾を潜っていない呑み屋だらけ。修行が足りないと反省しきり。
2002 寺田寅彦随筆集(第一〜五巻) 寺田寅彦 1946 岩波書店 旺盛な好奇心は実生活のあらゆる事象を科学と捉えた。
2002 シュルレアリスムとは何か 巌谷國士 2002 筑摩書房 既成概念を見事にうち砕く変幻自在なレクチャー。
2002 世界の教科書は日本をどう教えているか 別技篤彦 1999 朝日新聞社 各国の「公式見解」から日本の全貌が浮かび上がる。
2002 人間はどこまで耐えられるか F.アッシュクロフト 2002 河出書房新社 気鋭の生理学者が多様な事例を挙げて説く人間の限界。
2002 戦史の証言者たち 吉村昭 1995 文藝春秋 緻密な小説の背後に存在する生々しい取材の現場。
2002 坑夫 夏目漱石 1976 新潮社 30年ぶりに再読し、当時と同じ感慨に耽りたることに驚愕する。
2002 御伽草子(上・下)   1985 岩波書店 時代を経てもモチーフに大した変化がないということは示唆に富む。
2002 芸術と青春 岡本太郎 2002 光文社 エキセントリックには訳がある。自由奔放は気紛れではなかった。
2002 文藝別冊・澁澤龍彦ユートピアふたたび   2002 河出書房新社 鬼才の内面を鋭く抉る。ナイーブな仮面の下には剛直な信念が。
2002 声に出して唄おう日本の春歌 西はるか 2002 竹内書店新社 奇怪な連帯感を生む伝統芸能もセクハラの名の下に消え去るのみ。
2001 昭和天皇の研究 山本七平 1995 祥伝社 戦中戦後の立憲君主としての行動規範は如何に形成されたのか。
2001 あさま山荘1972(上・下・続) 坂口弘 1995 彩流社 ファナティックな行為に駆り立てた閉鎖社会にもそれ相応の理屈が・・・。
2001 ラ・ロシュフコー箴言集 ラ・ロシュフコー 1989 岩波書店 当世のコピーライターも真っ青な、シニカルで鋭いアフォリズム。
2001 エミール(上・中・下) ルソー 1963 岩波書店 教育の荒廃は親世代の安逸の代償である。往時の教育論で自戒す。
2001 昭和天皇独白録 寺崎英成 1995 文藝春秋 御用掛が聞書きした生々しい独白。4段上と併読すると立体的な姿が見える。
2001 近世風俗志(一〜五) 喜田川守貞 1996 岩波書店 江戸時代の文物を絵入りで詳説。京坂と江戸の厠の違いまでも図示。
2001 ガレー船徒刑囚の回想 ジャン・マルテーユ 1996 岩波書店 艱難辛苦を超越する信仰と、地獄の沙汰も金次第という現実の相克。
2001 眠狂四郎無頼控(一〜六) 柴田錬三郎 1960 新潮社 匂い立つような市井の描写とうっそりと佇むニヒルなヒーロー。
2001 (市販本)新しい歴史教科書 西尾幹二他 2001 扶桑社 風評喧しいものの意外な内容。歴史認識は元来多様なものか。
2001 とんまつりJAPAN みうらじゅん 2000 集英社 笑え笑え!珍妙な笑い祭りやトンマな奇祭を求めて、東奔西走する。
2000 海の史劇 吉村昭 1972 新潮社 奇跡の勝利の陰には綿密な伏線が。戦艦三笠に会いに横須賀へ行く。
2000 銃・病原菌・鉄(上・下) ジャレド・ダイアモンド 2000 草思社 文明発達の必然性を広範な知見から喝破する。英語的発想のなせる技。
2000 十六の墓標(上・下・続) 永田洋子 1982 彩流社 理想社会建設というドグマのもとに行なわれた凄惨な「総括」の実態とは。
2000 ものがたり風土記 阿刀田高 2000 集英社 史実と伝説に介在する「人間の営み」に興味を持ち、縁の地を旅する。
2000 復刻版 大東京寫眞案内 博文館編纂部 1990 博文館新社 震災カラ復興シタ昭和8年ノ大東京ヲ空撮ス。都市生活ヘノ憧憬ノ原点。
2000 グーグーだって猫である 大島弓子 2000 角川書店 んるるっ。我が輩以外にも猫はいる。For the cat. By the cat. Of the cat.
2000 「日本」とは何か 網野善彦 2000 講談社 「百姓」=「農民」という思い込みが「日本」=「瑞穂國」の虚像を作る。
2000 戦艦武蔵ノート(作家のノートT) 吉村昭 1985 文藝春秋 膨大な資料と格闘し、執拗な追跡が始まる。これぞ男の仕事。
2000 連合赤軍・“狼”たちの時代1969-1975   1999 毎日新聞社 一途な時代を、諸氏の証言と貴重な映像によって追憶する。
2000 菅江真澄遊覧記(1〜5) 菅江真澄 2000 平凡社 江戸時代の東北地方の生活ぶりと、当時の旅の苦楽を詳細に書き残す。
1999 仏像の声 西村公朝 1999 新潮社 いにしえの仏さまから発せられる深遠なメッセージを読み解く。
1999 五輪書 宮本武蔵 1985 岩波書店 生涯無敗の実戦経験から恬淡の境地に達し、人間真理の箴言を残す。
1999 毛沢東秘録(上・下) 産経新聞「毛沢東秘録」取材班 1999 扶桑社 伝えられた姿とはあまりに落差のある「革命」の裏側。
1999 裸婦の中の裸婦 澁澤龍彦 巖谷國士 1997 文藝春秋 一葉の絵からひろがる千変万化なダイアローグ。
1999 貧困旅行記 つげ義春 1995 新潮社 侘びしさを求めて木賃宿を遍歴する。味わい深い写真も秀逸。
1999 アメリカ彦蔵 吉村昭 1999 読売新聞社 激動の時代に翻弄された漂流民の数奇な運命を的確な筆致で描く。
1999 山本七平 ガンとかく闘えり 山本れい子・良樹 1999 山本書店 苦楽同根。人生の最期を極限まで濃縮する病の不思議。
1999 飢餓海峡 水上勉 1990 新潮社 昨秋、小説の舞台を夜行列車で訪ねる。恐山は心のふるさと。
1999 青春三十年 山極圭司 1999 朝日新聞社 旧制水戸高校における自治と体制の相剋。真の教育は今何処。
1999 8時だョ!全員集合 伝説 居作昌果 1999 双葉社 歯磨いたか?宿題やったか? 待ったナシ、真剣勝負の生放送。
1998 なぜ国家は衰亡するのか 中西輝政 1998 PHP研究所 大英帝国や古代ローマに準える衰退のプロセスと諸現象。日本危うし!
1998 ヨーロッパの不思議な町 巖谷國士 1990 筑摩書房 人生への讃歌とともに異境の時空を旅する。姉妹編も◎。
1998 東京の地霊(ゲニウス・ロキ) 鈴木博之 1998 文藝春秋 精力的に集めた土地にまつわる断章を精緻な物語に再構成。
1998 快楽主義の哲学 澁澤龍彦 1996 文藝春秋 哲学を韜晦して実生活の行動指針となす。愉快な非常識人指南。
1998 たけしの20世紀日本史 ビートたけし 1998 新潮社 現代の原点を求めて日露戦争まで遡る。
1998 参勤交代 山本博文 1998 講談社 当時の巧妙なトラブル回避手段や解決事例が興味深い。
1998 歌謡曲の構造 小泉文夫 1996 平凡社 時代を鋭く映す歌謡曲に見出したヒットの法則。
1998 大東亞科學綺譚 荒俣宏 1996 筑摩書房 未知なるものへの情熱が迸る異端の科学者列伝。
1998 甲斐の山山 小林経雄 1992 新ハイキング社 山と峠を細大漏らさず実地踏査した渾身の地誌。
1998 イエス・キリスト聖骸布の陰謀 ホルガー・ケルシュテン他 1998 徳間書店 キリストは生き延びた?現代の科学が真相を追い求める。
1997 高松宮日記 高松宮宣仁親王 1997 中央公論社 簡潔な記述が弟宮の懊悩と時代の空気を今に伝える。
1997 おい癌め酌みかはさうぜ秋の酒 江國滋 1997 新潮社 暗雲の中に一縷の光芒が。ひかりは確かに射していた。
1997 インドの大道商人 山田和 1990 平凡社 機能する社会システムにエセ人権派もタジタジ。一度行かねばならぬ。
1997 憑霊信仰論 小松和彦 1994 講談社 フォークロアと現実の狭間に潜む邪悪な精神領域を喝破。
1997 落選確実選挙演説 ビートたけし 1996 新潮社 戦後民主主義の澱を払拭すべく、タケチャンマン立ち上がる!
1997 修証義に学ぶ 禅に生きる五章 佐藤俊明 1993 社会思想社 一者布施,二者愛語,三者利行,四者同事。これがなかなかできねんだなあ。
1997 花嫁化鳥−日本呪術紀行 寺山修司 1990 中央公論社 日常の非日常性を求めて彷徨し、非日常の中の日常に辿り着く。
1997 ドキュメント出稼ぎ 野添憲治 1994 社会思想社 自らの強烈な体験から綴られた骨太で堅固な文章。
1997 無名の人々 異色列伝 平田弘史 1993 講談社 モラリティと劇画という自在な表現手段の高度な融合。
1997 ザ・アスレチック・スイング デビッド・レッドベター 1993 ゴルフダイジェスト社 親父の道具で猛練習開始。「練習場の鬼、コースのホトケ」と化す。
1996 古本綺譚 出久根達郎 1990 中央公論社 松沢天皇こと蘆原将軍は一体何者か?執拗に追い詰めた結末や如何に?
1996 エッフェル塔試論 松浦寿輝 1995 筑摩書房 近代を象徴する「記号の極北」にこだわり、原風景へと還元する。
1996 東京ブチブチ日記 東海林さだお 1990 文藝春秋 絶妙な筆致で日頃の鬱憤を吹っ飛ばす快作。ンモー!ザマミロ!
1996 元禄世間咄風聞集 長谷川強校注 1994 岩波書店 当時の日常会話から日本の原風景が炙り出される。
1996 漱石を売る 出久根達郎 1995 文藝春秋 本との出会いを丹念に辿る。本を介して人が鮮明に語られる。
1996 日本フォーク私的大全 なぎら健壱 1995 筑摩書房 時代の旗手たちへの追憶。寝食を忘れたのめり込みが何かを生む。
1996 ヨーロッパ退屈日記 伊丹十三 1976 文藝春秋 旺盛な好奇心で勇躍国境を飛び越え地球を大股で闊歩する。
1996 新スポーツ 階段スキー 田中金治 1995 東銀座出版社 階段を普通の靴で滑ることに熱中し、なんとウェーデルンまで極める。
1995 摘録 鸚鵡篭中記(上、下) 朝日重章 1995 岩波書店 克明な日記が伝える今とさして変わらぬ300年前の暮らしと社会。
1995 物理の散歩道(1〜5) ロゲルギスト 1963 岩波書店 再び読み返し、あらためて自由な発想に心躍る。
1995 日本残酷物語(1〜5) 宮本常一他 1995 平凡社 埋もれた稗史を全国に求め、時間を超越した社会の基部を描く。