NOBE Laboratory
Profile of Tatsuo NOBE
Hair tonic


「床屋泣かせ」といわれた往年の剛毛を夢見ての、私的研究


 学生時代は長髪(!)で、たまに床屋に行くと髪が硬くてはさみが切れなくなると文句を言われた小生も、30半ばから前頭部からつむじにかけて毛が細く薄くなった。江戸時代にはわざわざ月代を剃り、むしろそこに毛が生えているほうが無精であるという年長者が萎縮しないで済む素晴らしい社会通念が構築されていたが、昨今の状況では小生とても気が気ではない。そこで何か画期的な解決策はないものかと思案したが、科学を標傍する学徒としては自分の頭で試さぬ手はないと思い、よい機会なので左右半分ずつの比較対照実験を敢行してみた。
 初めに試したのは洗髪方法で、髪が薄くなって表皮を洗いやすい状態になっても脱毛は加速するばかりであるのと、宗教上の理由によって一生洗髪しないひとも禿げないことや、髪が豊富な某有名人も今まで6回しか洗髪したことがない、などと聞くと、むしろ洗髪しないほうがよいのではないかとの疑念が浮かんだ。そこで、頭の半分だけを入念に洗い、後の半分はまったく洗わないという実験を半年続けたが、残念ながら有意な差は現われなかった。
 次にセンブリエキスを初めいろいろな成分の内外の育毛剤を試すことになった。ただしどの育毛剤にも効果は半年後以降に現われるとあり、とっかえひっかえの試行では因果関係が明確に出ない。そこで頭の半分だけに半年から一年間ずつ試してみたが、相性もあるのかなかなか有意な差は現われず、困惑は深まるばかりであった。しかし、気のせいか最近有名な「蓑吉汁」だけは毛が太くなったような錯覚をさせてくれ、糠喜びに浸ることができた。
 最近は去る者は追わずという悟りの境地に至り、近く迫った得度の日を待ちわびる毎日である。