復興BCP研究


東日本大震災で被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。

大震災よりひと月以上が経過した現在,生活再建に向けた様々な活動が行われ,復興状況に新たな変化が生じつつある。避難所でのプライバシー確保の問題をはじめ,仮設住宅不足による日常生活の継続性に関わる問題,漁業など土地環境に根ざした仕事と生活を同時に喪失した問題など,新たな課題解決が強く求められており,建築が持ち得る潜在的な力を更に発揮する必要性が求められている。一方で,この大災害により失われた尊い命の数はあまりに甚大であり,どう願っても,どう働きかけても震災前の状況にもどせない現実にも立ち向かわなければならない現状も存在する。

私自身は,これまでコンクリートのリサイクルに関する研究を通じ,コンクリートの基礎的物性をはじめ,最終的には担い手の要求条件を踏まえた建築のライフサイクル,更には文化的価値化に関する考察を深めてきた。そして建築には,「建て築く」といった「もの・こと」の概念が含まれることにより,物心両面の価値が備えられ,ライフサイクルの概念が比較的容易に成立するものと考えていた。

しかしながら,今回の大災害により,時空間上の広がりを有する理念上のライフサイクルというものは,人知を越える自然の猛威を前に,脆くも崩れ去るものであることを思い知らされたのである。

3.11工学院大学新宿キャンパス緊急避難所の様子

2011.3〜2011.12までの東日本大震災・都市減災プロジェクトによる復興調査

3.11工学院大学25階研究室の様子

3.11 工学院大学 25階ロビー 地震動観測直後の様子

このような人と建築におけるライフサイクルを含めたライフシステム全体に対して,広く普及している仏教の教えを踏まえて更に思案すると,経典の一節である「色即是空 空即是色」の文言に関して,「固定的な実体性」が失われている事を意味する「空(くう)」により,「すべての物事は空により成立し,空こそがすなわち物事」という基本的な考えが示される。これにより,世の中の「諸行」や「物事」は,実体性が失われやすい「無常」な存在となる。同時に,「時間」というものは,「常ならぬ変化そのもの」とする解釈も腑に落ちる。

さらに,この解釈を援用すれば,ダーウィンの遺した名言である,「生き残る種は,最も強いものや,最も知的なものではなく,最も変化に適応できる種である」という言葉の理解についても容易になろう。

上記を踏まえれば,人や建築に関わるライフシステム全体は,本質的に,その特徴や内容を自律的に制御し続けることは容易ではないが,常に生じ続ける変化を受け入れることができれば,時間はゆるやかに流れ,新しい進化を遂げることも期待できるのであろう。

石巻・北上茅場における海水浸入による塩分量調査

石巻・東屋の塩分浸透による劣化度調査

研究室では,これまでの検討を踏まえて,微力ではあるが,一刻も早く,人と建築による物心両面のライフシステムを復興するために力を注いでいきたいと考えている。

そして,今後の社会の中で次代を引き継ぐ学生とともに,この度の大震災により失われた人と建築のライフシステムから,数多くの物心両面の教訓を真摯に受け取り,都市計画や地域防災計画と連動させた新しい人と建築のライフシステムを再構築し,最終的には人と建築のライフサイクルを最終段階まで全うできるような礎を築いていけるようともに取り組んでいきたいと考えています。

ペット専用仮設住宅の実態調査とタイポロジー対策

福島・宮城における建物被害調査