野村奈緒

テーマ:

茅勾配と改質処理を施した茅部材の含水特性とカビ劣化性状の評価

研究概要:

日本の伝統建築として自然材料を利用して建てられてきた茅葺き建築は,現在後継者不足や良質な材料の減少などの多くの問題を抱えている。茅葺き屋根の寿命は10〜30年と言われているが,傷んだ部分には部分的に葺き替える方法が取られている。しかし,茅葺きの葺き替えには多くの費用と手間がかかる。

2011年3月11日に発生した,東日本大震災によってもたらされた最大の被害である津波により,東北地方の茅場に多くの被害が出たと言われている。

そこで研究1では,震災の被害を受けた茅(ヨシ)の産地(石巻市)の調査を行った。今後の茅素材の安定した供給体制への被害が生じており,本研究では限られた量が供給された状況における茅素材の様々な劣化抵抗を向上させるための動機ともなってくる。既往の研究2)3)では,茅葺き建築の腐食に関して勾配の違いによる降雨時の内部温湿度変化についての研究が行われた。本研究ではそこで得られた結果をもとに,温湿度変化によるカビの繁殖と茅素材との関係性(研究2,研究3)について実験を通して研究を行う。

また,研究3では茅素材が湿度・角度・改質処理によってどのような含水特性が生じるのか実験を行い,数式モデルから係数を求め実際の数式を導く。本研究の目的として,茅葺き建築の茅がどのような条件下で腐食するのかということを実験から評価し,様々な観点から茅葺屋根の長期耐用化を目指す。

1)吸水試験の結果としては,短期では有効限界吸水率の違 いは見られない。Yは角度による影響が見られず,Sは 45度のとき初期吸水速度は小さく有効限界吸水率も小 さい傾向にある。湿度が高いと有効限界吸水率が高く, 初期吸水速度は大きい傾向。また有効限界吸水率は短期 に比べ長期の方が明確な差が見られた。

2)カビ繁殖は目視の結果では,湿度90%角度90°,90% 45°,50%90°の順でカビやすい。湿度90%では試験体の周囲,湿度50%では試験体の内部に多くのカビが見られたことが特徴的である。

3)色差計測結果(カビ劣化状況)   L*値はYよりSの方が下がったため劣化が大きい傾向に あることが分かった。

4)吸水率が高くなるほど,L*値が低くなることからカビ繁 殖の可能性が大きくなる。

自己アピール:

趣味…料理、バスケットボール、音楽鑑賞

研究成果:

1)野村,田村:日本建築学会関東支部,2012

2)野村,田村;工学院大学UDM論文,2012