君島 新一

修士研究:
視覚距離により多像化する壁紙のパターン知覚が住空間印象評価に与える影響

IMPRESSION EVALUATION OF THE MULTI-PRINTING PATTEM WALLPAPER ACCORDING TO THE DIFFERENCES OF VISUAL DISTANCE IN SPACE

研究概要:
国内では,高度経済成長期以後における住宅需要の高まりと設計・施工の合理化に対応するために,内装仕上げ材の一つとして多種多様な樹脂製壁紙が製造・施工されてきた。2011年の年間生産量は6.7億uで,世界の壁紙市場の1/5程度を占めるほどになっている1)2)。また,その主たる製品である塩化ビニル系壁紙は,比較的廉価であり,かつ種類が豊富で施工性に優れるため,住宅の内装壁紙に多用されており3)4)5),近年は抗菌や消臭,汚れ傷防止など,様々な機能付与に配慮した開発が行なわれている。 一方で,環境配慮の視点からは,製造者が多様な使用者の要求に応えるために多種類の在庫を抱え,結果的に使用されずに再資源化される状況は改善の余地がある2)と言えよう。加え,そのような状況で普及した内装壁紙に対する使用者の印象に関しては,常に満足度が高い評価が得られるわけではなく 2),内装壁紙の材料選定手法は,設計者および専門工事業者の判断に依存する傾向が見られ,使用者の嗜好を踏まえた住空間へニーズが適切に反映されていない可能性がある。著者らの既往の研究6)では,既存の塩化ビニル系壁紙に加え,オレフィン系素材を改質して耐久性,施工性を改善した新たな壁紙製品7)に対し,物理・感覚・嗜好という3つの視点から官能検査を実施し,壁紙のテクスチャー(素材特性,色彩,表層模様)のみならず機能性も含めた印象を総合的に評価し,壁紙による住空間印象評価を高める効果について考察することができた。

そのような状況で,現在日本は世界で有数の高齢化進展国に位置づけられ,世界諸国は数十年後には同じ道を辿ることが指摘3)されているが,このことは換言すれば,世界に先駆けて高齢化社会対応の課題と対策を検討し始めていることになる。実際,少子高齢化によるマンション居住世帯の増加に伴う都市部への人口集中などの影響により,居住者の室内活動時間は増える傾向にあり9),住空間とその構成材料に対する安全性,快適性ならびに物理的耐用性などの要求がより一層高まりつつある3)10)11)。また,内外装壁面の機能的価値が重視された商業建築などでは,機能性が高められた多種多様な建築仕上げ材が用いられ,人間の立ち位置に応じた空間の見え方により,色,模様,光の移ろいを含む内外装壁面のテクスチャーの変化が得られるような新たなニーズも生じつつある。 以上を踏まえ,本研究では建築の内部空間の構成因子となっている壁紙が,居住環境における身近な建材として視覚的に常時影響を与えるものと位置づけ,色彩と表層模様などによるテクスチャーが使用者の心理的な印象に関わる知覚的な変化を生み出し,最終的には壁紙への認識の程度や愛着が高まり長期耐用に資する建材となる可能性を検討するため,図1の流れで研究を行う。まず,壁紙のテクスチャーの構成因子となる表層模様に着眼し,壁紙が人の観察距離に応じて近接した場合(近景)に認識度が高くなる模様(パターン要素:5種類),観察距離が離れた場合(遠景)に認識度が高くなる模様(イメージ要素:6種類)を設定し,画像の解像度を変えて重ね合わせることで,視覚距離に応じて連続的に表層模様が変化する多像化壁紙(全210種類)を作製した。この多像化壁紙を用いて,住空間での使用を想定した認識度に関わる官能検査を実施し,印象評価の傾向を分析するとともに,多像化壁紙の観察時の脳内の血流変化をfNIRS(functional near infrared spectroscopy:機能的近赤外線分光分析法)用いて計測し,人間の脳内血流変化を分析する。そして官能検査結果と人間の生体反応との関連性を評価し,住空間内の建築仕上げ材等の視覚距離変化に応じて,人の印象評価が脳生理的にも変化する可能性を具体的に検証し,今後の住空間構成に関わる建築仕上げ開発の新たな視点を導く可能性を検討した。

The tendency of low birthrate and longevity for people has been developing year after year in japan,and the indoor activity time has been increasing. In the circumstance,the tendency would have strongly affected that the interior space is asked for the visible changes of the texture on the wall,and wallpaper companies start manufacturing many variety types of wallpapers to meet the lots of user's demands. In this research,the multi-printing pattern of wallpaper according to the differences of visual distance is developed,and the differences of recognition of the texture to the wallpapers from the close range to the long range distance view could be confirmed by sensory test and fNIRS. As the results,it could be shown a new effectiveness of the wallpapers introducing multi-printing pattern for making enrichment during the indoor activity time for people.

研究成果:

君島,田村,大原(大日本印刷),新素材壁紙のテクスチャーにおける自然素材の表現性に関する研究,日本建築学会関東支部研究報告集,2011.3

君島,田村,大原,新素材壁紙のテクスチャーにおける自然素材の表現性に関する研究,その1日本建築仕上学会論文集,2011.10

君島,田村,大原,新素材壁紙のテクスチャーにおける自然素材の表現性に関する研究,その1,日本建築学会大会,2011.9

大原,君島,田村,新素材壁紙のテクスチャーにおける自然素材の表現性に関する研究,その2,日本建築学会大会,2011.9

君島,田村,大原,工学院大学論文報告集,2011.9

君島,田村,大原,素材壁紙のテクスチャーにおける自然素材の表現性に関する研究,日本建築学会技術報告集,2012.10月(採用済,掲載予定)

君島,田村,大原,視覚距離により多像化する壁紙のパターン知覚が印象評価に与える影響,その1,日本建築仕上学会,2012.10(予定)

君島,田村,大原,視覚距離により多像化する壁紙のパターン知覚が印象評価に与える影響,その2,日本建築仕上学会,2012.10(予定)

後輩へのメッセージ:
とにかくとても楽しい研究室だと思う。飲み会?が多いので、お酒が弱い人でも少しずつ強くなれますよって〇〇〇〇が言ってました。