水野ちはる(チパル)



研究テーマ:

高粘度液体による延焼抑制技術の漆塗り建材への適用性評価と原状 回復技術の開発

研究概要:

1.研究の目的

現在、初期消火に用いられる消火器として、粉末消火器、浸潤 剤入り消火器または純水消火器が主流である。このうち粉末消火 薬剤、浸潤剤入り消火薬剤は消火建物への汚損影響が大きく、 重要文化財などへの設置には適していない。そこで文化財等の 歴史的建造物の屋内火災の初期消火装置として、小型消火器の 高粘度消火器 (3L 型 の設置が検討されている。高粘度液体は粘 土鉱物を含みチクソ性を有する。高粘度液体の主成分は水であ るため、汚損リスクを大幅に軽減できる可能性があり、純水消火剤 よりも優れた消火性能、延焼抑制効果を有しているといえる 。本研 究では、研究 1 で美術工芸における文化財建築に使用する漆塗 試験体の塗装工程調査を行 い、 研究 2 で作製した漆塗試験体を 用いて、高粘度液体による汚損程度を既存の消火薬剤の中で一 番汚損性が低い純水消火薬剤と比較し漆塗に消火薬剤を塗布し、 所定の乾燥処理後 、 汚損の程度を定量的に色彩値、光沢度によ り表面粗さ評価する

2.研究の方法

表 1 に使用材料、表 2 に実験要因と水準を示す。 檜板目材 に 漆塗りをし、表 5 の 蝋色 仕上げ工程により施し、文化財建造物に 準じた漆塗りを作成する。左側45oを健全部とし、右側45oに消 火薬剤 3 種各々を塗布し、純粋消火薬剤(w)、高粘度液体エチ レングリコール無(b)、高粘度液体エチレングリコール有(a)による 汚損の程度を比較する。 試験体の表面状態に傷のない通常状態 のものとメタルハイドランプ色促進耐光性試験によって屋外で半 年劣化させた状態の試験体を用いて通常状態の 屋内 経年劣化を 想定させた状態の時の汚損の程度についても比較する。 研究 3 では高粘度液体エチレングリコール有を使用し除去方法を検討 する。高 粘度液体は水を含ませると除去できる可能性があるため ガラス板を用いて 拭き取り紙であるポリエステル紙とガーゼに水を 含ませ水分負荷量を検討したうえで、試験体に塗布した高粘度液 体エチレングリコール有を乾燥さた後に、拭き取り紙を乗せ、水を 含ませ時間経過後に除去を行う。

3.想定される結論とその研究が果たす社会的貢献度

1)試験2では表面的な劣化について評価し高粘度液体消火剤に よる白濁膜の固化物が表面にできているため、色差計、光沢度、 表面粗さの観点から評価すると、汚損している。またその汚損 はエチレングリコールの有無に関係しない。しかし白濁膜は反 応物ではなく高粘度液体による固化物のため水に浸透させるこ とで除去できる可能性がある。
2 )試験 3 では、湿潤高温の夏の状態であれば 3 時間のつけ置き で高粘度液体の固着は弱まり表面状態の汚損を除去できる可 能性が高い。 3 時間以上の時間を付けることで再び乾燥化が進 み固着が始まり除去がしづらい。
3) 乾燥期間 1 ヶ月の場合、いずれの湿潤時間条件でも 乾燥期 間 3 日に比べ白濁膜を除去しやすい。
4) 以上の結果から、平滑な漆塗り表面に形成された白濁膜に水を 加え湿潤させれば、白濁膜を除去することが可能であることが 分かった。

5.研究成果
1) 檜山,水野他,高粘度液体による延焼抑制技術の漆塗り建材への適用性評価と原状 回復技術の開発 その2.高粘度液体付着残存物の除去方法の検討日本建築学会関東支部研究報告集,CD-ROM, 2023.3 日本建築学会関東支部研究報告集,CD-ROM, 2022.3

2)田村,水野ほか,高粘度液体による延焼抑制技術の漆塗り建材への適用性評価と原状回復技術の開発 その1.高粘度液体付着前後の表面状態の変化2023度日本火災学会研究発表会梗概集,20235

3)田村,水野ほか,高粘度液体による延焼抑制技術の漆塗り建材への適用性評価と原状回復技術の開発 その2.高粘度液体付着残存物の除去方法の検討2023度日本火災学会研究発表会梗概集,20235予定

4)水野ちはる 歴史的建築物の木摺り漆喰天井への非破壊試験による保有耐力評価2021年度 日本建築学会関東支部研究報告集,CD-ROM, 2022.3 工学院大学卒業論文,CD-ROM, 2020.3