[1]
物理学という学問において,理論と実験は車の両輪であって,いずれが欠けても 機能しなくなります。 すべての現実に起きる現象は, 適切な理論によって解釈されなくてはいけません。 そしてすべての理論の当否は,それを実験結果と比較して検証することにより 決まります。

今日の物理学者は理論家と実験家に区別されます。 (仲間内では「理論屋さん」「実験屋さん」という呼び方をします。) 過去においては,一人の人間が実験と理論を両方やっていたのですが, 現代の物理学では,両方を一人でやることは極めて困難であって, 分業体制が確立しております。

これは研究内容が非常に高度化しているためです。 多くの理学部物理学科では,学部卒業時の「卒業論文」を課していません。 学部レベルでは,とても研究と呼べるような内容に到達できないからと いうのが1つの理由だと思われます。学部レベルでは,多少の選択の自由度 はあるものの,基本的には理論志望でも実験志望でも同じようなメニューの 教育を受けます。

日本の場合,普通の学生は,修士課程の2年と博士課程3年の訓練と学習を経て どうにか研究者としての入り口に立ちます。 その5年間,理論コースの学生は高度な数学を含めた自分の専門分野の内容, 技術的な手法と方法論を学びます。 指導教官の手伝いとして計算の一部を担当したり,コンピュータの利用法も 学びます。 一方,実験コースの学生は, 自分の専門分野に関係する理論的内容を学習するとともに,実験装置の開発や 技術,データの処理方法などを学び,場合によっては所属する研究チーム の一員として測定や当番に従事し,経験を積みます。

例外的に優秀な人間であれば,この双方をこなすことができるのかも 知れませんが(あまり見たことはありません。途中で 転向する学生はいますが。),普通の人間は,理論コースか実験コースのどちらかの 基礎訓練を受けて,ひとり立ちすることになります。