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私は「素粒子物理学」という言葉を使いました。英語では Elementary Particle Physics となります。 英文で分野名を表記するとき (Division of) Particles and Fields という呼び方もします。 これと並んで「素粒子論」(英語では,Theory of Elementary Particles になるでしょう)という言葉も良く使われます。 これらについて,注釈が必要となるでしょう。

広辞苑(第3版)では「素粒子論」という言葉に対して 「理論物理学の一分野。素粒子の性質や相互作用を研究する理論。」という 定義を与えています。

よくよく考えてみると,「素粒子論」というのは特定の研究対象を 扱うものではなく,我々の世界を構成する最も基本的な要素,最も基本的な 法則は何かということを追求する学問です。 従って,時代ごとに,その時点での素粒子論があり,そのフロントは常に 動いていることになります。19世紀末から20世紀初頭にかけての 素粒子論は原子の世界が研究対象であり,その結果量子力学が誕生しました。 次に原子核が研究され,原子核物理学が成立しました。 20世紀中葉以降,多くの「素」粒子,現代の言葉で言えばハドロンやレプトン が発見され,それらの多彩な相互作用が観測されました。 以下では,ハドロンの代わりにその構成要素であるクォークという言葉を使います。 これが20世紀の素粒子論の研究対象となりました。 研究の進展に伴い,クォークとレプトンの力学である「標準模型」が 確立しました。 21世紀の素粒子論は,高度に抽象化された数学を駆使しながら, 標準模型には含まれていない重力をもとりこみ,宇宙の創生と時空構造をも 統一的な視点から記述できるような理論,「究極理論(TOE=Theory of Everything)」 を目指して研究が続けられています。

さきほどの,「素粒子物理学」は標準模型とその延長上にある理論を 指しています。この分野は世界中で加速器をはじめとする各種の実験装置により, 実験的研究が進められております。 従って,それらの実験結果の成果を分析したり, 将来計画をにらみながら研究を進めて 行くことになります。 これに対して,上述のTOEの場合,実験的に検証可能なところに たどり着けるかどうかは未知数です。