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少し横道にそれますが「論」と「力学」の違いを議論しておきます。
もっとも有名な力学は,もちろんNewtonの力学でしょう。 その基礎方程式は<F=ma>というNewtonの運動方程式です。 この方程式を解くことにより,すべての物体の運動が決まります。 ボール,自動車,ロケット,...すべての物体の運動はこの方程式に 支配されています。

Newton力学では出発点となる方程式があり,あとはそれを数学的に 解けば,運動が決まるのです。 もちろん,力の性質によっては,容易に解けないものもあります。
例えば,3つの質点の間に万有引力が働いているケースは一般に解析的な 解を作れないことが分っています。例えば,地球と月と宇宙船の運動の ことです。しかし,解析解が無くても,実用上十分な近似計算を コンピューターを使って出すことができるので,無事月へ宇宙船を 送ることができるのです。
また,大気の様子を完全に把握するためには,すべての空気の分子の 運動を解かないといけませんが,そんなことは,もちろん世界中の コンピュータを動員しても不可能です。 ただし,そのようなことをしなくても, 実用上ある程度以上の精度で天気予報をすることは可能です。
とにかく「力学」においては出発点 となる確固とした基礎が存在しており,そこから「原理的」には解を 求めることができるはずだということです。ただし,上に述べたように, 原理的にわかるということと,実際に解が出てくるということは 別のことです。

これに対して「素粒子論」では,その目的が未知の基礎法則を探ること にあるのですから,出発点は不明で手探りとなります。 例えば,20世紀初頭の「量子論」の時代においては,水素原子の スペクトル線の研究からボーアが,その量子化条件を提唱しました。 この条件は結果的に正しかったのですが,その提唱時においては その明確な根拠は不明でした。 量子力学が完成した後は出発点がはっきりしているので, 基礎方程式に電子に働く電気力を与えるだけで,ボーアの条件と 同じものを学部の2, 3年生程度のレベルの学生でも導き出すことができます。 (もちろん,それに必要な微分方程式の解法などの数学を学んでいる という前提で言っています。)

対象力学枠組
巨視的物体 (Newton以前) Newton力学 微分方程式
原子,分子 量子論 量子力学 微分方程式など
ハドロンとレプトン 20世紀素粒子論 標準模型 量子場理論
すべての相互作用,宇宙 21世紀素粒子論 (TOE?) ???

あえて誤解覚悟で言えば,「論」の時代は天才が活躍する時代, 「力学」の時代はそれが一般人レベルに降りてくる時代と言えます。