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前の節までは,現状の説明でした。
さて,そろそろ本題の研究内容の具体的な説明に少しずつ入っていきます。
今までの議論を要約すると, 標準模型は確かに完成された力学としての資格を十分に 持っていますが,以下のような点についての研究が今後しばらくは 必要であると考えられます。
研究の進め方は,強い力に関するものと,電磁気力+弱い力に関するものでは
少し異なりますので,節を改めて別々に説明します。
いずれにしても,その前に,「摂動論」という,厳密な解が見つからないときに,
逐次近似で解を求めていくという方法論を説明しておく必要があるでしょう。
以下,そのイメージを理解してもらうための説明です。
例として次の式を見てください。
1 ------- = 1 + x + x2 + x3 + ... (式A) 1 - xこれは高校の数学で出てくる式です。両辺が等しいことを表していますが, 右辺は,項を無限に加えた結果が左辺になるという意味です。
1 1 ------- = ------ = 1.11111111 ... 1 - x 0.9となります。次に,右辺の項を順次加えていきます。
(1項目だけ) 1 (2項目まで) 1 + x = 1.1 (3項目まで) 1 + x + x2 = 1.11 (4項目まで) 1 + x + x2 + x3 = 1.111 : :このように加える項の数を増やすごとに,右辺と左辺の値の一致は 良くなっていきます。
実験的に測定された結果は必ず誤差を含みます。例えば10cm 程度の物体の長さを測定するとします。そのとき1mmまで読める 定規をつかったとします。このとき,例えば測定値として, 12.3cmとなったとします。しかし,本当の値は12.33cm かもしれませんし,12.29cmかも知れません。 このようなときに,理論的な予測として12.34567cmなどという 値を出しても,下のほうの桁は意味がないということは分りますね。
このように逐次的に近似的な値を計算する手法を摂動論と呼びます。
摂動展開が有効なのは,展開するパラメタの値が小さい場合に限られます。
そして,どこまで計算すればよいかは,パラメタの値と,それと比較すべき
対象に含まれる誤差で決まります。
今の(式A)の場合,展開パラメタはxです。仮に x=0.01 ならば,
1%の精度は2項目までの和で得られることになりますね。
一方,(式A)を x=2 の場合に考えれば,めちゃくちゃなことになっている
ことも分かりますね。
標準模型の研究では,厳密解を求めることができないので,
この摂動計算が主役となります。