急性肺塞栓症(PE)は、肺動脈に血栓が詰まることで引き起こされる極めて致死率の高い疾患である。診断には「造影CT検査」が不可欠だが、腎機能障害を持つ患者への造影剤投与リスクや、緊急時における検査の準備時間といった課題が存在する。そのため、造影剤を使用しない「単純CT(Non-Contrast CT: NCCT)」のみでの早期発見アプローチが望まれている。
卒業研究では、単純CT画像から「仮想的な造影CT画像」を生成(Pix2PixやCycleGAN等)した上で血栓を検出する手法を試みた。しかし、GANを挟むアプローチは、存在しない血管構造を描出する「幻覚(ハルシネーション)」のリスクを伴うため、実運用は困難であることが確認された。
単純CTから直接血栓を同定するためには、造影剤のない状態における「血栓部分」と「正常な血管(血液)部分」のわずかなCT値(濃淡)の差異を判別する必要がある。
現段階では、素人目でも血栓の判断が容易な複数の症例を対象に、血栓領域と正常血管領域の手動セグメンテーション(マスク付与)を行い、CT値の分布(ヒストグラム)を詳細に解析した。
解析の結果、単一の症例内であっても、血栓(PE)と正常(Normal)のCT値は30〜50HU(ハウンズフィールド単位)付近で大きく重複していることが明らかになった。
単純CT画像における「血栓」と「正常血管」のCT値分布は、患者単位において単純な閾値処理では分離不可能なほど重なり合っている。しかし、スライス単位で見ると明らかに分離しているスライスとオーバーラップが大きいスライスが混在している。
今後は、患者の副次的情報を考慮に入れつつ、この広範なオーバーラップと個人差を克服し、ハルシネーションを起こさない高精度なAIモデルの構築を目指す。