研究内容

現在、本研究室では、以下の4つの研究を精力的に行っています。

  1. ガス分離用シリカ膜の開発と水素製造膜反応器の開発
  2. 水処理/MBR(膜分離活性汚泥法)で用いられる低ファウリング膜の開発
  3. 膜乳化法/microfulidic乳化法を利用した機能性微粒子の開発
  4. 膜の新しい工学的利用法の探究

1. ガス分離用シリカ膜の開発と水素製造膜反応器の開発

ガス分離用シリカ膜の開発と細孔径制御技術

高温、高湿度など過酷な条件で使用可能なガス分離用シリカ膜の開発を行っています。シリカ膜は分子篩機構によってガス分離を行います。分子篩機構とは、細孔より小さな分子のみを透過させ、細孔より大きな分子は透過させないという、非常にシンプルな機構です。よって様々な適用用途にあわせて適切な細孔径にチューニングする手法の開発が必要です。ガスの分子サイズは1nm以下であるため、オングストロームオーダーでの細孔径制御技術の確立が必要です。

我々は化学蒸着法(CVD法)を用いてシリカ膜を製膜しています。我々はシリカプレカーサーの化学構造を変化させることで、細孔径が制御できることを示しています。例えばジメトキシジフェニルシラン(DMDPS)をシリカプレカーサーとした膜は、細孔径を5A程度に有し、極めて高い水素透過率と水素選択性を示します。またテトラメトキシシラン(TMOS)をプレカーサーとした膜は細孔径を3A程度に有することを明らかにしています。これらの細孔径制御技術により、ガス分離用シリカ膜の適用先が大きく広がると期待されています。

Fig1
Fig.1 シリカプレカーサーの化学構造に着目したCVDシリカ膜の細孔径制御

水素分離用シリカ膜を用いた膜反応器の開発

水素製造反応と水素分離精製を同時に行うことができる、水素分離膜を搭載した反応器を開発しています。これを膜反応器と言います。水素を製造する反応は平衡反応で、高温での反応が求められることが多くあります。これに対して、水素分離膜を搭載した膜反応器を利用して、製造された水素を直ちに膜を用いて分離精製することで、ル・シャトリエの法則に従い、水素製造反応の平衡シフトを実現できます。すなわち低温でも高転化率を実現することができます。

我々は水素分離用シリカ膜を搭載した膜反応器により、有機ハイドライド(水素エネルギー社会構築に向けて期待されている水素キャリア)の脱水素反応、メタン水蒸気改質反応、硫化水素分解反応などを実施し、低温でも高転化率を達成できることを実証しています。特に有機ハイドライド脱水素膜反応器の開発では極めて高純度な水素製造に成功しており、膜反応器により製造した水素を市販の燃料電池にダイレクトに供給し、長時間安定的な発電が可能であることを世界で初めて実証しています。

Fig2
Fig.2 DMDPS膜を搭載した膜反応器によるシクロヘキサン脱水素反応

2. 水処理/MBR(膜分離活性汚泥法)で用いられる低ファウリング膜の開発

低ファウリング膜の開発

膜を用いて水処理を行う場合、水中の汚れが膜に付着して膜性能が低下してしまいます。これを「ファウリング」と言い、水処理膜の開発においては避けては通れない課題です。ひとたび膜がファウリングしてしまうと、これを完全に回復させることは極めて難しく、ファウリングしない膜(これを低ファウリング膜と言います)の開発が求められています。

水処理における低ファウリング膜の開発において、生体適合材料(バイオマテリアル)の研究開発が参考になります。バイオマテリアルは、極めて多種類のタンパク質が溶けている血液に接するにも関わらず、材料自身にそのタンパク質が付着することはありません。我々はこの点に着目し、zwitterionicタイプのポリマーやノニオンタイプのポリマーにより市販膜の膜面および細孔表面を修飾することで、水処理に用いることのできる低ファウリング膜の開発を行っています。またその低ファウリング性発現には膜表面の水分子が重要なカギを握っていると考え、詳細なメカニズムについても研究を進めています。

Fig3
Fig.3 ファウリングした膜面とファウリングしていない膜面

電場を利用した新しい下排水処理法の開発

従来の下排水処理は、活性汚泥という塊状になった微生物により下排水中の汚れを分解させ、最後に活性汚泥を沈降分離することで清澄な水を得ています。これに対し、活性汚泥の沈降分離を膜ろ過に置き換える膜分離活性汚泥法(MBRと言います)という手法が提案されており、従来法と比べて高度な水質の処理水が得られるため非常に注目を集めています。ただし膜面が活性汚泥や下排水中の汚れによりファウリングしてしまう問題を解決しなくてはなりません。

我々はMBRのファウリング防止に電場を印加する新しい技術の開発を行っています。膜面に付着する活性汚泥や下排水中の汚れは大部分が負に帯電しているため、静電反撥力を利用することで負に帯電したこれらの汚れを強制的に除去することができます。この新規な手法は運転に必要エネルギーも少なく、環境面でもメリットの大きな技術であり、下水処理場でのスケールアップ試験も行っています。

Fig4
Fig.4 プラズマグラフト重合法を用いた低ファウリング膜の開発:
BSAによるファウリングを抑制している

3. 膜乳化法/microfulidic乳化法を利用した機能性微粒子の開発

水中に微小な油滴が分散、あるいはその逆に、油中に微小な水滴が分散した状態をエマルションと言い、エマルションを調製する技術を乳化と言います。中でもシラス多孔質ガラス膜(SPG膜)を用いた膜乳化技術は、エマルションの大きさを任意に制御でき、しかも単分散な(大きさの揃った)エマルションを調製できるため、工学的にも期待されています。

我々はSPG膜乳化法で調製されるエマルション液滴1つ1つをそれぞれ微粒子の製造場と捉え、様々な機能性微粒子の調製を行っています。粒径10nm程度の金属ナノ粒子をはじめ、粒径をサブミクロンオーダーから数十ミクロンオーダーまで制御可能な生体適合性ポリマー微粒子の調製に成功しており、粒径のみならず粒子の多孔構造や中空構造の制御も可能です。近年ではSPG膜を介したアルコールの透過を使用し、リポソームの調製にも成功しています。また、膜技術は大量生産へ展開することが容易な技術であり、スケールアップ検討も行っています。我々の提案している膜を用いた機能性微粒子調製技術は、特殊な粒子調製に限った技術ではなく、ユニバーサルな技術であり、医療分野、食品分野、化粧品分野への展開を視野に入れて研究を行っています。

Fig5
Fig.5 膜技術を利用した機能性微粒子調製法

さらに最近ではmicrofluidics乳化法にも取り組んでおり、特に微粒子の構造制御に力を入れています。

Fig6
Fig.6 Microfluidic乳化法を利用した複合エマルション調製

4. 膜の新しい工学的利用法の探究

膜操作は「分離」のための単位操作として研究が進展し発展してきました。我々は「膜は分離媒体である」という従来の概念にとらわれず、膜の新しい工学的利用法を探求しています。たとえば、膜の細孔の篩効果(膜の細孔より小さなものは膜を通すが、大きなものは膜を通さない)を利用した粒子分級技術の開発を行っています。本技術により任意の粒度分布を有する粒子群を簡便に得ることができます。

Fig7
Fig.7 膜を用いた粒子分級法の開発