放射線計測

この実験の解説内容をまとめたものを作りました。 PDFファイル にしてありますので,参考にしてください。

プラトー領域の測定



$\beta$線吸収曲線の測定

$\beta$線の実体は電子とその反粒子である陽電子です。 電子は負電荷,陽電子は陽電荷を持っているため, 物質中ではクーロン力による電離作用を起こします。 すなわち,物質を構成する原子から軌道電子をはぎ取る作用を起こすということです。 これは,原子核の質量が電子の質量の数1000倍以上であるため, 相互作用によって空間的な影響を受けないのに対し, 軌道電子とは質量がほぼ同じため軌道電子を弾き飛ばすことができるためです。 そのため, $\beta$線の実態である電子(陽電子)自身も相互作用によって大きくエネルギーを失い, 進行方向が変わることになります。 この飛跡は図のように曲がりくねっていますが,
全体としては$\beta$線の入射方向へ進んでいき, いずれは物質内で全エネルギーを失います。 なお,$\beta$線の散乱では入射粒子と標的粒子が同じため(電子・電子散乱), 入射$\beta$線と散乱線の区別はつきません。

$\beta$線と物質の相互作用には,以下のような特徴があります。
  • $\beta$線の飛跡が曲がりくねっている。
  • $\beta$線のエネルギー分布が連続である。
そのため,吸収物質の暑さと透過率の関係(吸収特性)は曲線となります。 $\beta$線の透過率が1/10程度までは, 吸収曲線は物質の厚さに対してほぼ指数関数的振舞をします。 つまり, 縦軸に計数率(対数メモリ),横軸に吸収帯の厚さ($\mathrm{mg/cm^2}$)をとると, 単調減少のグラフに近い形になります。 これが今回計測したAlによる吸収係数の測定結果というわけです。 注意をしてもらいたいのですが, テキスト193ページにある「表12−2」にある"Background"とは, 最初に測定した放射線源を置かない段階での計測数のことで, この値を測定値から引いたものが補正値となります。

例題として、ある実験グループが測定したデータを簡単に解析した場合のグラフを用意しました. 参考にしてください. 2枚目が吸収計数の測定実験です。 測定頻度が高い場合は不感時間の影響により測定値が低めに出ます。 そのため、最初の4点を無視して、吸収係数の傾きを決めています. 最後の4点でフラットな部分を決めている(平均を出している)のですが、こうやってみるとやや強引ですね.

なお,この曲線については,以下のように補足をしておきます。
  • この振舞については,$\gamma$線の指数関数的減弱(一次$\gamma$線)のような明確な物理的意味はありません。
  • 吸収体の厚さが小さい場合,計測数が$10,000\,\mathrm{cpm}$を越える場合があります。 このような場合,GM計数管の不感時間(1つ目の信号が入ってから, 次の信号を受け付けることができるようになるまでの時間。 GM計数間の場合,$200\mathrm{\mu s}$程度)の関係で数え落しが生じます。 計測数が$10,000\,\mathrm{cpm}$で$3\,\%$程度ですので, 今回の測定においては直線が少し鈍った形になります。
吸収体の厚さ$R$と計数率$I$の関係は, $$ I=I_0\exp(-\mu R) $$ と近似的に表されます。 このとき,$\mu$は吸収計数($\mathrm{cm^2/mg}$)と呼ばれ, $\beta$線の最大エネルギーを$E_\beta\,[\mathrm{MeV}]$,物質の原子番号を$Z$とすると,
  • $\mu=0.017{E_\beta}^{-1.43}$ (Al換算)
  • $\mu=0.080Z^{0.28}{E_\beta}^{-1.57+Z/160}$
となります。

また,$\beta$線の最大エネルギーと最大飛程の関係は、 テキストにある通りです。 測定によって最大飛程が測定できますので,この値を使って, $\beta$線の最大エネルギーを算出してください。


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