研究内容

WORKS

本研究室では,物質の最も基本的な構成要素である素粒子と,素粒子たちの持つ相互作用について理論的な研究に取り組んでいます。これらの研究によって,物質の究極的な姿と,我々が生きているこの宇宙の成り立ちに迫っていきたいと考えています。

素粒子論とは

「素粒子」とは,もともとは,物質をこれ以上分割できないところまで細かく分解したときに登場する究極の構成要素を意味する言葉です。長い自然科学の歴史の中で,人類は物質をより小さな構成要素に分割することに成功してきました。我々の周りにある全ての物質は,原子や分子という粒子の集まりであることが知られています。分子は原子が複数結合したものであり,原子はさらに原子核という小さな粒とその周りに捕らわれている電子とに分割できます。原子核は陽子と中性子という2種類の粒子から構成され,陽子の数がその原子の化学的性質を決定しています。陽子と中性子はさらにアップクォークとダウンクォークという2種類のクォークが3個集まることで構成されています。クォークや電子が内部構造を持っているかどうか(より基本的な粒子に分割できるか)は現在の科学ではわかっていません。これらの物質を構成する粒子以外に,電子の兄弟的な粒子として,ニュートリノという電気的に中性な粒子が存在することもわかっています。アップクォーク,ダウンクォーク,ニュートリノ,電子が我々の周りにある物質的な粒子です。

非常に不思議なことに,これらの物質粒子は,電荷等の性質がこれら4つの粒子と全く同じで,質量だけが異なるセットが他に2セット,合計すると3セット存在することが知られています。これらのセットを世代とよびますが,なぜ物質粒子が3世代存在するのかは,素粒子物理学の大きな謎の一つです。

素粒子には,これらの物質を構成する粒子たち以外に,素粒子間の相互作用を媒介する,ゲージボゾンという粒子があります。例えば,電磁気力は光の粒子である光子によって媒介されます。素粒子の相互作用には,重力相互作用,電磁相互作用,弱い相互作用,強い相互作用の4種類が存在することがわかっています。重力相互作用は素粒子の世界では大変弱い相互作用であり,重力を媒介するゲージボゾンである重力子は発見されていませんが,それ以外の3つの相互作用については,相互作用を媒介する粒子の存在が実験によって確認されています。

我々の世界に存在する素粒子とその相互作用は,素粒子標準模型とよばれる理論によって非常にうまく記述されます。標準模型では,電弱相互作用とよばれる相互作用が,対称性の自発的破れによって電磁相互作用と弱い相互作用に分かれますが,このようなメカニズムを引き起こすキーとなる粒子がヒッグス粒子です。ヒッグス粒子は標準模型に登場する粒子の中で,重力子を除くと最後に発見された粒子です。2012年7月にヒッグス粒子が発見されることによって,標準模型の正しさが実験的に確認されました。

素粒子論と宇宙論

素粒子の性質がわかると,それは過去の宇宙の姿を調べるのに適用できます。我々の住んでいる宇宙は,現在膨張していることがわかっていますが,これは逆に言うと,時間をさかのぼれば,昔の宇宙は非常に小さな宇宙であり,そこに非常に高いエネルギーが閉じ込められていたことを意味します。別な表現をすれば,宇宙は昔は非常に熱い宇宙だったものが,膨張とともに次第に冷えていき,現在の宇宙になったと考えられるわけです。初期宇宙のような熱い宇宙では,物質はもはや原子のような形にまとまっていることができません。この時期の宇宙は,素粒子の性質によって完全に説明できろと期待されています。また,ビッグバンの最初の段階であるインフレーションもまた,量子効果が支配する物理なので,素粒子論と同じように場の量子論を用いた研究がなされています。このように,素粒子論のように極小な世界の物理と宇宙のように極大な世界の物理は実は密接に結びついています。

標準模型を超える素粒子理論

標準模型に登場する素粒子は全て実験によって実在が確認されており,素粒子現象の多くは,素粒子標準理論によって説明されます。しかしその一方で,微小ニュートリノ質量の起源,宇宙の暗黒物質の正体,宇宙のバリオン数の起源など,標準理論では説明できない現象も知られています。これらの謎を解明するために,標準理論自体をより深く理解することや,標準理論を超える新しい素粒子物理理論を構築し,それをいかに実験で検証するかということを調べていくことが重要です。本研究室では,場の量子論に基づいた素粒子反応の理論計算を精密化したり,標準模型を超える新しい理論を考えてその性質を調べたりしています。