T.最新の聴覚感性工学系研究成果(研究室の学生用)
1.研究の分類
研究は、以下の通り樹形図的に分類して考える事とする。(建築中)
2.論文
令和に入ってからの、国際査読論文を列挙する。他に、査読のない国際学会報告や国内学会報告も多数あり。今後の文献引用には、基本的にはこの6つを用い、不足があれば査読無報告で補うと良い。
3.講演会
令和元年から、鎌倉市で耳の健康セミナーを実施している。適宜、参加されたい。
令和4年度第3期に、藤沢市の放送大学でクラシック音楽紀行を講義した。音楽の歴史を、クラシックに軸足を置いて人類の起こりから現代ポップスまで浚った内容。テキストの申し込みは不可だが、pdfデータの提示は可能。講義内容の音源あり、聴講は可能。
4.Webの整備
「癒しの音楽室」の建築現場 ⇒ こちら
その他、以下のWebサイトが別にあるので、適宜参照されたし。
1. | 耳年齢調査アンケートサイト(近々ディスプレイ改善予定) | |
2. | 癒しの音楽室(現在立ち上げ設計中)用音楽書庫 | |
3. | 音や音楽関係のインターネット実験アイテム |
U.従来知見の超要点のみ列挙
1.音と音楽の定義
本研究室では、音は「振動伝播」の「大脳認識」と定義し、「音楽」は「音」の「時空間的配列」と定義する。即ち、本質的には、音楽の評価は、音の評価と併せて、音の配列評価をする事になろう。
1.1. 音 |
人が音として認識できる振動伝播は、およそ20Hz〜21kHzであり、この周波数の振動伝播を音、あるいは音と言う単語をより汎用的に使う為に「可聴音」と称する。人は、可聴音を聴覚だけではなく触覚でも感知する。また、人は、不可聴音を聴覚では感知できず、触覚でのみ感知する。20Hz以下の人には聞こえない音を「低周波振動」、21kHz以上の人には聞こえない音を「超音波」と称する。
可聴周波数領域は動物により異なり(人の年齢や耳の状態でも異なる:耳年齢参照)、人に聴こえない音も他の動物に聴こえる事はある。 |
1.2. 音の要素 |
音の要素は「音量」、「音程」、「音色」と言われている。音は、時間と共に変化する事が多い。本研究室では、ブザーの様に音の音色も音量も変わらない音を「定常音」、太鼓の音の様に自然と減衰する音を「打撃音」、強弱の時間履歴を自由に付けられる音を「吹奏音」と称し、区別する。(吹奏音ではなく弦楽音でも歌唱音でも良かったのだが、偶々吹奏音と命名してしまった。)
時間と共に音が変化する場合には、要素の時間変化を評価する事になる。また、残響など、一旦音自体が発せられた後に環境の作用により変化して聞こえる場合には、音とは異なる別の要素や指標も必要となってくる。 |
1.3. 音の構成 |
音は、唯一の振動数から成る「純音」と、複数の純音が同時に存在して成る「合成音(複合音)」に分類される。合成音を構成する純音を、「部分音」と称する。
人は、合成音の音程を、最低周波数の部分音の音程と同一と感じる。それゆえ、最低周波数の部分音を「基音(基底音)」と称する。また、基音以外の部分音を、「上音」と称する。基音の周波数の自然数倍の周波数の上音を、特に「倍音」と称する。 打撃音は、音源が自己摩擦等でその振動エネルギーを減じる事で、減衰する。波形の包絡線(上端を滑らかにつないだ線)が示す減衰曲線は、指数関数で表現できる。 音色は、部分音の混在状況により決定されると言われており、その関係性をスペクトルと称する。自然界の音は、高周波程小さい音量、もしくは高周波の音程小さく変化(揺らぐ)する。この特性を「1/f特性」と称する。聞こえている合成音が1/f特性に近い程、心地よく感じる(ストレスが小さい)と言われている。この現象は、人だけでなく広く植物から動物まで広く「体験的」に認められている。 音楽で使われる音は、原則として心地良い音である。特に、歴史の中で洗練された楽器は、主として偶数倍音を1/f特性に近く発する、とても心地良い音であり、この音を「楽音」と称する。また、楽音以外を概して「噪音」と称するが、最近では楽音でも噪音でもない音を定義すべき様にも思われる。噪音は音楽にできないと言われているが、音楽に噪音を取り入れた例は数なくない。 |
2.音並びに音楽と人との関係
質量の往復移動の伝播を聴覚で感知すると音に、触覚で感知すると振動になります。音と振動は、基本的に同じ物理事象で同じ特性を有し、人への影響も同類と推察される。
2.1. 音と音楽は遮断できない |
聴覚情報は、空気等の媒介の振動伝達である。これは、体表面や鼓膜に至り体振動に変わり、音や振動として感知される。
したがって、耳を完全に塞いでも(これがそもそも難しい)、音や音楽を遮断する事はできない。逆に、完全に音のない環境に入った人は、いつもと異なる環境に耐えられない可能性もある。 因みに、手塚治虫は初めて漫画で「シーン」と言う無音状態を擬音化した。実際には、人は入射音に対して反射音を出している事と、内耳は音と関係なく生命活動している事4から、体内からも音が出ている。鼓動や呼吸音は、途切れない生命活動を示す体内から発せられる音である。 |
2.2. 人の生命活動とリズム |
母の胎内にて、聴覚器官ができるのと心臓ができるのは、ほぼ同時期。つまり、胎児は生まれる前から、母と自分の鼓動を聴いて育っている。
心拍の基本は3拍子で、運動等で心拍が上がると2拍子になる。平常心拍数は人によるが、60〜70回/分。心拍数は、呼吸等の他の神経制御に影響を受け、変化する。心拍数の変化は、ストレスや神経系の変化を見る為の一つの参考となる。 胎教の本質は、母親の心拍数だろうと考えられる。母親の心拍と胎児の心拍は同期している事が予想される。胎教とは情操教育に他ならないのではないかと考えられる。 3拍子の音楽と2拍子の音楽では、心理的な(あるいは心臓的な)影響が異なるものと想像される。また、音楽の拍数が早い程、興奮作用があり、低い程鎮静作用があるものと想像される。これらは、音楽療法実験で明らかにすべき課題の一つである。 |
2.3. 音楽の良し悪し |
音楽の心身への影響は、個人の好みに大きく依存する。これが、これまでに音楽処方箋が原理立てて系統化され得なかった理由である。これは、人間の成長過程における音楽の使われ方(聴き方)の違いによる。
他方で、高周波の音が興奮作用があり、低周波の音が危険を体感させる作用がある等、音の人に依らない普遍的な人への影響もある。音楽にも普遍性があるものと期待している。音楽処方箋の成功の鍵は、この普遍性と個性を分離する事に始まるものと推察している。 |
3.難聴のメカニズム
難聴の原因は様々であるが、いわゆる加齢性難聴は、内耳の有毛細胞(神経細胞の一種)の疲労破壊現象として整理可能だと考えられる。即ち、有毛細胞が弱い程、また、入射音エネルギーが大きい程、難聴になり易い。そして、神経細胞は自己修復しないので、加齢性難聴は回復しない。
有毛細胞の強弱は、体全体の健康度と、持って生まれた遺伝子的要因に大きく依存するものと推察している。例えば、メタボリック症候群の患者は難聴になり易い。有毛細胞を強くするという課題は、医薬学的である。
他方、入射音エネルギーを小さくする為の方策は、様々考えられる。音楽の選択や、イヤフォンの改善はその一つである。巷に氾濫するポップス(商用音楽)は、クラシック等の古来の音楽と比べると、高周波まで用いている為に音エネルギーが大きい。また、イヤフォンはその性能にも依るが、概して高周波を強調する。最近の若者は音エネルギの大きい音楽をイヤフォンで聴いてる為に、難聴リスクが非常に大きいと言える。
本研究室では、耳に危険か有効化の指標に基づき、音楽をデータベース化している。集積される音楽は、少なくともスペクトル特性、エネルギー特性について分析されるべきと考えられる。また、それらが音楽のジャンルによって、共通性を有するかを確認すべきである。少なくとも、クラシックは、現在ポップスと比べて難聴になり難いと考えられる。