中島 駿介(アーミー)



研究テーマ:

5年間の屋外暴露による外部影響を受けた柿葺き屋根の劣化指標提案

研究概要:
日本は世界の中で先進国でありながら、「近代的な建物」と、昔ながらの「伝統建築」とが混在する珍しい国である。また、混在していることでふと街を歩くだけで時代の流れによる日本の建築の進化の過程が分かる。そして「伝統建築」にはコンクリートや鉄が持たない自然の木や土による温かみがあり、古き良き日本の文化を象徴している。「伝統建築」はかつて都があった京都・奈良を中心に全国に存在し、古き良き日本の文化に触れられる貴重な建物として観光地などに指定され、年間多くの観光者が訪れている。しかし、現実問題として「伝統建築」にはいくつかの問題が挙げられる。主な問題として挙げられるのが技術者・職人の高齢化・減少による補修の問題である。「伝統建築」は地震が多い日本において長きにわたり木造という自然の力で耐えてきた。当時は木造が当然のことであり、自然を使って人が居住するための空間をすべて人の手によって造りだしていた。やがて時代が移り変わると、木造からRC造、S造、SRC造とのような無機物の建材が使われる建物が増えていき、機械化から特別な技術が無くとも、地震に耐えうる強い建物を建築することに変化してきた。このことから、時代が経つにつれ職人が減少していくことになった。ただ、現在でも多くの「伝統建築」が日本には存在しているため問題視されているのが技術者不足であり、「伝統建築」の補修が難しくなった原因である。 そこで、今回の研究では山梨県塩山市にある9種類の?葺きの屋外暴露試験体1)を使い、あらゆる実験から?葺き屋根の様々な劣化を数値化し、劣化指標を作成し現在の劣化状況を数値化していく。その上で?葺き屋根の補修方法について考え、屋根に必要とされる条件を満たすことを目標とする。 本研究では、文献などによる?葺き屋根の特性2)3)や木 場所 人・天 種類 年数 記号 特徴 宮崎 人工 杉 35年 Mas35 試験体全体にくし状劣化(以降:くしびき)が多数見られる 秋田 45年 Aas45 試験体全体にひびが多く見られる 宮崎 80年 Mas80 試験体右上部に凹凸(以降:がたつき)を中心とする劣化 秋田 90年 Aas90 くしびきやひびが試験体全体に広がる 秋田 天然 170年 Ans170 試験体全体に傷が少ない 秋田 170年 Ans170U 全試験体の中で唯一1〜11までの処理済み 秋田 栗 50年 Ank50 全体が細かく割れている(ひび・浮き・破損) 秩父 人工 さわら 40年 Casa40 軽度の劣化が試験体全体に広がっている 秩父 天然 40年 Cnsa40 試験体中心部に多数のがたつきあり について学ぶ(調査1)と山梨県塩山市に保有している9種類の屋外暴露試験体を実験体とし、色々な側面から実験体を測定する(実験1)そして、実験結果を数値化し劣化の統合的指標を作成する(調査2)の三段階にて?葺き屋根の劣化について考察していく。

まとめ
本研究より以下の知見が得られた。
1) 表面貫入力はどの屋根材も強度が低下傾向にあり、特に試験体において「杉」「栗」は短い期間にも低下していることが分かった。
2) 劣化位置について全体に広がっていることが改めて分かった。木の樹齢や種類によって劣化の違いも判明した。試験体上部に劣化が起こりやすいことがわかった。
3) 色彩値には各樹木の特性がロジスティック曲線式にて明らかとなった。暴露試験開始から5年目となり落ち着いた変化となってきているので、今後の観察次第でより精度を高く持ったロジスティック曲線式に近づけられると考えられ
4) 屋根材の質量変化について半数以上が100%以上を保っていることが分かった。ただ、原因として屋根材の表面に塗料が塗ってあったこと、劣化による菌などの付着、採取直前の雨水の吸収などが関係していると思われる。
5) 赤外線反射率測定について全波長、可視光、赤外線の値全てが5年暴露材に比べ未使用材の方が高く劣化が認められた。暴露材に劣化による黒色化が発生してきていて、波長を吸収しているのが原因であると考えられる。
6) 含水率の減少率について角度が急であるほど一気に水を放出していると考えられるため、木自体の劣化がまだあまり進んでいないと考えられ、緩いと放出が遅いことから劣化していると考えられる。但し劣化の仕方によっては角度が急になり、木が強すぎると吸水しなくて角度が緩いといったことがあるので数値に注意が必要。
7) 統合的な指標について、?葺き自体の寿命は25年ほどあり、5年目ではすべての結果として提示するには根拠が弱いため暫定的な結果となった。

研究成果:
中島駿介,田村雅紀:5年間の屋外暴露による外部影響を受けた柿葺き屋根の劣化指標提案,日本建築学会関東支部研究報告集,2017.3
中島駿介,5年間の屋外暴露による外部影響を受けた柿葺き屋根の劣化指標提案,工学院大学卒論

特技・趣味:
水泳、読書