梅本 真穂(まほ)

   

 


研究テーマ:

四国中央部・三波川変成帯の地質構成が地産壁土に及ぼす 物質的影響による伝統左官技法の継承

研究概要:
先進工業国である日本は、経済状況の変化と並行して、建築材料も鉄筋コンクリートなどの人工材料が主流となった。一方で、現在日本で保存されている歴史的建造物の多くは、土や木材などの素材加工度の低い建材1)が用いられており、長い間変わらない歴史的街並み保存に重要な役割を果たしている。素材加工度が低い建材ほど自然材としての特徴をそのまま残し生かしており、利用方法の伝承されていくべき素材であると考えられる。この中で土壁について特筆すべき点として例をあげると、京都の二條陣屋では解体修理中、時代変遷に伴って多様な色土で塗り重ねられた土壁が発見され、日本で古くから土の色彩をたしなむ文化があったことがうかがえる2)。土の色は人に馴染みやすく、気候風土によって様々な色合いを出す3)。且つ建材としての土は、防火性能、調湿に優れていること、二酸化炭素の削減が期待でき、リサイクル使用も可能である上に、維持保全に適した素材であるため、近年国内外再評価され、活用需要が増えている4)。
このような状況の中、平成17年に景観法が施行されて以降、日本の多くの市町村で景観計画が策定されている。その中で低加工度の土や木材等の建材は例外として規制除外対象となっている地域が多くあるが、闇雲に自然由来の素材を用いることが得策ではない。色彩は街並みを印象付ける重要な要素であり、土色は土地条件に起因して色彩が異なる2)。景観統一を図る際、地域を代表する色、いわゆるローカルカラーとの調和が必要になる。街の大部分を占める色は地域の土色であり、土が街の景観形成の代表的要素としてあげられる。
かかる背景のもと、本研究では日本固有の土着の壁土材料の色彩特性に焦点を当て、地質や気候区分等の地域特性を明らかにした上で、地域ごとの色彩分布を作成する。

本研究で、以下の知見が得られた。
1) 日本は島国で、南北に長い形状であることに起因して、地形や気候が複雑であり、火山の噴火や地震による地殻変動や浸食が絶えないため、多様な色彩の土が存在する。
2) 土の色彩は緯度や経度に依存して変化している。a*b*値は緯度・経度が高くなるほど値が下がり、明度は緯度及び  経度の変化に依存しない。
3) 同緯度及び経度であっても気候区分や地形が異なると土の色彩に差異がある。
4) 色彩は養分と鉄分によっても変化を伴うが、これらの傾向にそぐわない色土が多く点在していることも分かった。それらについて、鉱山や温泉地など特殊な地域に存在し、他とは異なる養分や鉄分、またその量と関係しているのではないかと考えられる。
5) 採取された時期や採取した層の地質年代によって一つの地層内からも、数種類の色土が採取されることがある。
6) 今後、局所的に植生の調査や地層ごとに地質年代を明確にしていくことで、地域ごとの精確な色彩分布を示していく。

特技・趣味:
旅行とサッカー観戦、華道とテニス


研究成果:
1)梅本真穂,地域特性から見た景観構成要素となる地産壁土の色彩分布,2016年度工学院大学卒業論文報告集1,pp.73-76, 2017.1
2)梅本真穂,田村雅紀,地域特性から見た景観構成要素となる地産壁土の色彩分布,2016年度日本建築学会関東支部研究報告集1,pp.73-76, 2017.1
3)梅本真穂,田村雅紀,壁土の風土から見る色彩特性と地域特性の評価,2016年度日本建築仕上学会研究発表論文集,pp.161-164, 2016.10
4)梅本真穂,田村雅紀,壁土の風土から見る色彩特性と地域特性の評価,その2 含有酸化物測定と土地条件の分析,2017年度日本建築仕上学会研究発表論文集,pp.109-112,2017.10

5)梅本真穂、田村雅紀、後藤 治,四国中央部・三波川変成帯の地質構成が地産壁土に及ぼす 物質的影響による伝統左官技法の継承,2018年度 日本建築学会関東支部研究報告集,CD-ROM, 2019.3
6)梅本真穂,田村雅紀、壁土の風土から見る色彩特性と地域特性の評価,2018年度 日本建築仕上学会研究発表論文集,pp.173-176, 2018.10
7)梅本真穂,田村雅紀、地域特性を踏まえた地産資源による建築資本改良,その3 重要伝統的建造物保存地区における土素材の伝承形態の見直し,2018年度日本建築学会学術講演梗概集,CD-ROM, 2018.9
8)梅本真穂,四国中央部・三波川変成帯の地質構成が地産壁土に及ぼす 物質的影響による伝統左官技法の継承,2018年度 工学院大学修士論文報告, 2019.3
9)M.Umemoto,M. Tamura, Variation Color of Local Produced Mud Wall as Landscape Element form Stand Point of Japan Regional Characteristics in Asia , 13th KOREA-JAPAN Joint symposium on Building materials & Construction, Korea Hanbat, 2017.8