DIARY 2002年8月後半



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8月18日(日)

ちょっと驚いたことは、DDIポケットのPHSがまったく使いものにならなかったことだ。実際にDDIポケットのサイトで確かめたところ、千葉県富津町は電波の届く範囲から大きく外れている。ところが海のすぐそばまで行くと、不思議なことに電話の通話可能マークが反応した。神奈川県の基地局まで電波が届いているだろうか? それとも館山など千葉県内の都市なのか? いずれにしても障害物のない海の上は電波が届き易いのか? よくわからない。

岩井駅前。お客さんのたくさんいる土産物屋さんの目の前に、どうやら開いているにもかかわらず誰も近寄らない店があった。「ラーメン」「お土産」と書いてあり、「中華そば」という暖簾も確かにかかっている。中をのぞくと、土産物には食品は一切無く、絵葉書やら古そうなおもちゃやらが、ことごとくホコリを大量にかぶったままで並べられていた。奥にはテーブルが二つほどあったが、掃除をした様子は無く、ゴミのようなものが積み置かれていた。よく見ると、テーブルの向こう側にある長椅子に小さなお婆さんが横たわっている。壁には何が書いてあるのだかよくわからない張り紙が所狭しと貼ってある。壁に「メニュー」を探したのだが見つからなかった。電車の時刻が迫っていたが、そうでなければラーメンを注文してみたかも知れない。店を開けて閉める以外のことは何もせず20年くらい経てば、こんなふうになるのではないかと思った。ここ数年一人の客も来ていないとしても不思議ではない。

肝心のSTSNJ「夏の学校」の方は、実際に話してみると非常に話しにくい話題であることがわかった。自分ないし自分のいる場所について何かを説明しようとすると、言いたくないことを言わなければ十分でないことに気づかされるからだ。

ちょっと疲れたし、Y氏の作ってくれたピザでお腹がいっぱいになったので、早く寝ます。


8月19日(月)

大学では今日からいろいろと活動が始まっている。そのため6日あたりからずっと懸案だった、昨年度の学内研究所の研究報告をついに提出することができた。最後まで残った問題は、研究課題の正確なタイトルは何かということだった。タイトルがわからないので研究報告書の1行目だけが空欄で残っていたのだ。こういう事態を招いてしまったのは、研究代表者が報告を出す前に海外研修に出かけてしまっており自分の書類にアクセスできないこと、共同研究者の私は書類の写しをまったく持っていなかったことが理由だ。今日久しぶりに開いた事務室と電話で連絡をとって、昔の書類の控えを探して題名を読み上げてもらい、やっと完成した原稿をメールで提出した。

駅前に初めて(だと思う)漫画喫茶ができた。ビルの2Fだ。同じ建物の4Fには学習塾が入っており、2Fに上る階段の壁に昨年度の生徒の氏名と合格校を大きな字で書いて貼り出してある。漫画喫茶に行こうとすると受験の雰囲気の中を通らざるをえず、塾に行こうとすると漫画喫茶の誘惑があるようになっている。どちらのテナントにとっても、客をまっすぐに呼び込むのに相応しい環境ではない。

大学院生を昨日、一昨日といっぱい見たからかも知れないが、忘れていた頃のことを思い出した。修士論文で悩んでいるなどという話を聞かされると、妬ましい気持ちにすらなる。そういう悩み方はもうできなくなってしまった。


8月20日(火)

リニューアルオープンを再来年に控えて、徐々に部分的に休館になっていく予定の江ノ島水族館に行く。Y氏および私の目当ての一つは、クラゲファンタジーホールだ。クラゲ諸種の生活環を水槽内で再現したことが自慢のようで、詳しい説明が掲示してある。ミズクラゲのポリプまで展示している(拡大鏡を通してモニターに映し出される)ところが特徴と言って良いだろう。

9月中旬で閉館する、およそ50年の歴史を持つマリンランドでは、イルカ、アシカのショーを見物。サンシャイン水族館のショーと比べると、進行もゆっくりだし、セットも手作りといった感じで、派手さを欠く。いかにも、お祭りの余興といった感じだ。映画館やゲームセンターと集客を競うサンシャイン水族館と、海水浴客や見学の子供たちを楽しませようという江ノ島水族館では、興業目的が異なっているのだろう。

「アシカの世界旅行」という出し物を見た。身体をひねったまま静止するようアシカに命じて「コペンハーゲンの人魚像」と呼ぶといった類のことをいくつか繰り返す一連の「一発芸」なのだが、最後に調教係の人が「さあ、皆さんもこれでヨーロッパを旅した気分になりましたね。」と言うと、すかさず「ならない、ならない」と前の方の席の子供がつっこみを入れていた。再スタート後はもう少しスマートな進行をした方が良いのではないかと心配になる。


8月21日(水)

『批評空間』の終刊という噂を聞いてウェブページを覗いて初めて知ったのだが、終刊と会社解散の理由は編集長だった内藤さんが5月に亡くなったからということだ。内藤さんは私が初めて青土社の雑誌『現代思想』に文章を書いたときに会った編集者の人。まだ大学院生だった私が編集者という人と接したほとんど最初の機会だったからかも知れないが、とても印象的な人だった。ここを見て思い出したのだが、初めて横浜の喫茶店で会ったとき、たった今まで柄谷行人氏のところに行ってインタビューをしてきたのだと、とてもうれしそうに語っていたのを覚えている。その時を合わせてたぶん4回、それもほんの少し会ったきりだと思う。もうほとんど忘れていたのだが・・。合掌。

また出てきたのがこのニュース。高圧送電線の電磁波問題だ。こういう、「関係があるかも知れないが、はっきりあるとは言えないと」いう結論(だと思う)を出すために、8年の月日と7億円をかけるアメリカのやり方はすごいものだと思う。安全とはなかなか言い切れないし、多くの人が心配していることなのだから、やはり研究してみる姿勢は必要なのだろう。ネガティブデータしか見込めないような研究というのはサイエンスのレベルではあまり意味があるとは見なせないのだが、現実の社会問題の視点からは重要ではなかろうか。(2002/08/24:日本での調査についての報道がありました。WHOの依頼で日本でもこの5年の間に研究が蓄積されたそうです。)


8月22日(木)

大学では「窓のない会議室」に閉じこもりっぱなしで、今何時かということすらよくわからなくなる。気づくと8時で、知らないあいだにメールボックスにいろいろ入っていたりする。

宇部市が制定した男女共同参画推進条例の第三条第五項は「専業主婦を否定することなく、現実に家庭を支えている主婦を男女が互いに協力し、支援するよう配慮に努めること。」となっている。あらゆるところに「男女」「男女」と、両性の対等性を示す言い方が 出てくる中、この項の「主婦」という単語はかなり異質に見える。だいたい「主婦を支える男女」ってどういうことだ。市会議員は一人としてこの文が変なことに気づかなかったのだろうか? もしこのような条文が許されるとするならば、世間的には専業主婦よりずっと肩身の狭い思いを強いられている専業主「夫」に対する尊重をうたった項が当然あってしかるべきだろう。斎藤美奈子の性差万別なら☆1つだ。良いのか宇部市? 知らないけど。


8月23日(金)

家で研究や授業準備をするために大学から持ち帰った書類や本を、休みの間にまた大学に戻そうと思って少しずつ運んでいるのだが、なかなか進まない。そうこうしているうちに、あと3週間で授業が始まる。

発表者が足りない学会の報告内容を考えたり、担当者がいなくて困っている授業の内容を考えたり、他の編者が忙しくてできない共編著作の仕事をしていたりする。

本のネット販売のさきがけAmazonムーミンの哲学を調べてみたところ、「この商品に興味がある人は、こんな商品にも興味をもっています」で出てくる本は、「ムーミン谷の名言集―パンケーキにすわりこんでもいいの?」、「ムーミン谷への旅―トーベ・ヤンソンとムーミンの世界」、「ムーミン童話の百科事典」の3冊であった。意外なようであるが、案外意外でないのかも知れない。 ちなみに、よく売れているらしい。

王様の絵で知られる会社に引越しの見積もりを頼んだら、カップヌードルをくれた。一瞬「引越し蕎麦」という単語が頭に思い浮かんだが、これは引っ越しする人があげるものであってもらうものではないはずだ。その後、これを引越し蕎麦として用いてくださいというプレゼントかも知れないと思いついたが、そのときにはすでに食べ終わっていた。


8月24日(土)

この夏ナンバーワンのバカアイテムとして噂になっていた『釈お酌』と『シャクライ君』 の実物を、今日初めて池袋西武百貨店の9階で目撃した。すぐそばではモニターでプロモーションフィルムが流れており、釈由美子が「しゃく、しゃく、しゃく、しゃく、釈お酌♪」という歌に合わせてつまらない踊りを披露するシーン、使い方の説明のシーン、キャミソールドレス姿の釈由美子(本物)がカウンターの向こうからくたびれたサラリーマンにお酌をするシーン(「イメージ映像」のテロップ付き)を見ることができた。飲み会の席の冗談から出てきたようなアイデアだと思う。一瞬面白いのだが、素面になってよく考えるとそれほど受けそうにない。もちろん、ビンゴの景品で受け狙いの残念賞にするとか、お酌をしてほしそうな男性上司からの攻撃を避けるために女性の部下がこれを武器にするなど、使い方がないわけではなさそうだ。それでも「初年度10億円の売上げを見込んでいます」とあるとバンダイの見識を疑う。何十万台も売れる商品とは思えないのだけれど・・・。

もっとわからないのが、どう見ても手を抜いたデザインの「シャクライ君」だ。「釈お酌」はファンが買うかも知れないが、「シャクライ君」は何のために作られたのかわからないなあと考えているうち、ジェンダーバランスという単語が思い浮かんだ。「若い女性は、年上の男性にお酌をするのが当然であるという考え方をバンダイは持っているのではないのか」というつっこみを回避するためだけに「シャクライ君」が作られたのだとしたら、デザインにお金をかけていないことも理解可能となる。

引越し前ということもあって、バーゲンの売れ残りを見て回ったが、結局買ったのは私の靴1足だった。

ジュンク堂の中をあちこち歩いていて、大学院受験の英語問題集や、大学院受験体験記といった本がいろいろ売られていることを知った。私が大学院に入ったときは、ここを出ても就職はありませんけど良いですねと面接で確認されたし、大学院に進学することを正常なライフコースではないという意味で自虐的に「入院」と称する同級生もいたほどだった。理系だけでなく文系でも、実学志向の大学院が増えているということなのかも知れないが、ちょっと時代の隔たりを感じる。


8月25日(日)

新宿西口の雑踏を抜けて日曜日の大学に登校。さすがに静かだ。その上、いつもすぐに「圏外」表示が出てしまうPHSの電波の届き具合まで良好だ。どうしてだかわからないが。

一昨日夕刊紙の見出しで「○上急死」という文字を見つけた。最初の一文字だけ隠れて見えなかったので、誰が死んだのだろうといろいろ想像した。「坂上」「井上」「田上」「今上」などいろいろと考えてみたが、有名人一人をほぼ確定することが可能な「上」で終わる漢字二文字の熟語を思いつくことができなかった。後になってテレビのニュースでヤクルトスワローズの監督「武上」氏であると知った。

ずいぶん昔のものらしいが、 ここ6番目の記事 によれば、宇宙人のクローンがすでに何年も前にできていたそうだ。宇宙人も地球型生命体と同じような細胞をもっているところが不思議だ。言葉をしゃべるということだし、ひょっとすると地球人の近縁種かも知れない!? 「周知の事実である」そうだが、その前に「UFO研究家たちにとっては」とあるので、一般的には事実であると見なされていない、と述べているのと同じことだろう。


8月26日(月)

気づかないうちにPHSに電話の着信があって、まったく知らない番号だったので、これはもしやと思ってここで調査してみたところ、「その番号は登録があります。危険ですので決して電話しないで下さい。」と出た。

区役所の出張所で転出届と戸籍謄本を待っているあいだ、置いてあるパンフレットの類を見ていたら、都立短大の入学案内を見つけた。都知事の方針ということでどうやら都立短大は将来消滅してしまうらしいのだが、まだ今年は募集をしておりパンフレットもこういう場所にちゃんと置いてある。夜間課程の授業料年額189,600円というのは、他の大学・短大ではちょっと考えられない魅力的な金額だと思う。(消費税5%込みと見なせば、私が大学生のとき国に納めていた授業料年額180000円にほぼ等しい金額だ。)ちなみに、都立短大廃止問題についての参考資料はこちら

引越し日程が正式に決まったので、東京電力、東京ガス、水道局に電話。お昼どきに電話したら、電気とガスはちゃんとつながったが、水道局は休み時間で人手が足りずかけ直しとなった。粗大ゴミと生協が残った。


8月27日(火)

江戸川橋の駅から神田川に沿って下流にしばらく歩いていったところにある出版社にちょっとだけ寄った後、飯田橋駅に向かう途中、少し大通りから離れた道を歩いてみようと思って路地に入ったら、「江戸川アパート」というものを見つけた。今でこそ崩れ落ちそうな壁だが、かつては立派で高級な建物であったろう面持ちを残しているこの「アパート」は、この都心でいまだに壊されずに残っており、わざわざ写真撮影禁止などという看板を出しているところから見て、有名な建築物に違いないと踏んで調べてみた。ここここによれば同潤会シリーズの一つで、やはり有名なものらしい。ただしもうすぐ解体、建て直しをするとのこと。初めての道を通るのは、こういう体験があるから楽しい。

飯田橋(駅がめちゃくちゃ深いのでびっくり)から都営地下鉄で目的地の東大本郷キャンパスへ。本富士署の横から入る抜け道を通ったところに「情報学環・学際総合情報学府」の新しい建物がある。未来志向の名称をもったこの組織の建物は、何の特徴もないただの箱だ。(と思ったら暫定的な建物らしい。)


8月28日(水)

普段あまり行かないスーパーで見たことのないしろくまを発見。喜んで買って帰った。フタバ食品のもの。小豆の代わりにあん入りであるところが特徴だ。

ところがフタバ食品のウェブページを見ても、製品紹介のところに「しろくま」が出ていない。あまり力を入れていないのだろうか。それとも、もう発売中止になったのだろうか。なにしろ、あまり人の出入りの多くないスーパーだ。レジに人がいないことがよくある。ただし、なぜか夜の12時まで開いているので、遅くなったときなどについつい入ってしまうところでもある。こういう流行らない店のアイスクリーム置き場は、賞味期限がはっきりしていないのを良いことに商品を冬越しさせたりすることがありそうなので、もうとっくに発売停止になった商品があっても決して不思議ではない。

蛍光色ウサギが死亡したというニュース。見るからに嘘っぽい写真で、子供の頃夜店でいろいろな色のヒヨコを見たことや、大学生のとき校内をうろついていた野良鶏が青色にカラーリングされていたことを思い出してしまう。写真だけ見せられたら遺伝子操作だなんて露ほども思わないだろう。ちなみに、どこかのいたずら学生によって青く着色された鶏は、餌を定期的にくれる決まった飼い主がいなかったため、コンビニの袋をもった学生を見つけると襲ってくることもあったそうだ。嘴で人の足をつつきまくり、袋を置いていくまで許してくれなかったという。

高校教科書関連の仕事と生物学史分科会夏の学校の準備。


8月29日(木)

仕事はメールでやってくる。学校行事であるこれの仕事やら、先週終えたつもりだった報告書の部分的書き直し、その他。

引越し手続きのために訪れた会社が西新宿のため、Y氏が初めて研究室に現れてなぜか写真を撮る。初公開の研究室内はこちらこちら。意味無く椅子がたくさんあること、ロッカーや本棚に統一性がないこと、それに部屋の片付けや掃除をする時間的余裕がないこと、がよくわかる写真だ。

1年以上前(だと思う)に、東洋大学卒業生で都立大学科目等履修生のK氏がもってきたネコ漫画『ゆず』をY氏が発見し、持ち帰る。ちなみに著者のページはこちら。主人公ゆずの写真も。

転出の手続きはしたが転入の手続きをまだしていない現在、ひょっとして私は住所不定になるのだろうか。今、何か犯罪を犯したら「住所不定の大学教員」として紹介されるのか? それとも、転入の手続きがすんだら転出先に連絡が届いて、そうして初めて転出が完了したことになるのだろうか。

NTT東日本に移転手続きの電話をして、フレッツISDNをやめてアナログ回線にすると言ったら「ではフレッツADSLですか」と聞かれて、違うと言ったら「では他社のADSLですか」と聞かれた。それも違うといったら、もう追求されなかった。他社のADSLでもNTTに報告する必要があるのだろうか?

こんなふうに、よくわからないことがわからないまま、引越しまでの様々な手続きが進んでいくため、いろんなことが不安になってくる今日このごろだ。

明日は事情により日記を更新しません。


8月31日(土)

無事に生物学史の夏の学校を終えて帰宅。久しぶりによく勉強したという気持ちになる。昔の研究テーマと重なる18世紀の発生学の話は懐かしかったし、ES細胞についてなどは勉強になることばかりだ。

国民宿舎というので、古ぼけたサービスの悪いところを想像していた。たしかに、門限があったり、食事の時間が決まっていたり、酒の持ち込みに制限があったり、ゴキブリを一匹発見したあたりはそのとおりだったが、夕食は気合が入っていたし、部屋も風呂もきれいで、かなり意外だった。聞く話では、今どきの国民宿舎というのは「安くて良い宿」の代名詞でもあるらしい。来年もここで開催するというアイデアに意義を唱える者はいなかった。

同室になったのは、どちらも私より若いジャーナリストK氏および私が昔通っていた大学院でまだ修士課程の学生をしているA氏。2週間前も同じ屋根の下にいたA氏とはちゃんと話をするのは初めてだったが、大学院生気質がそれほど昔と変わっていないことを発見する。彼だけが時代に取り残されているのでなければであるが。(ちなみに誉め言葉です。)

K氏とは初対面だが、互いに書いたものは読んでおり、ウェブページも見たことがあるということがわかった。初めて会う人にウェブページを見たことがあると言われるのはうれしいが、更新しているのがこの日記ばかりだというのは恥ずかしいので、何とかしたいと考えさせられる。K氏は科学論をもっと系統的に勉強してみたいというのだが、他方で多くの科学史家は現在進行形の問題をテーマに選ぶようになってきている。アカデミズムとジャーナリズムの境界はあまりはっきりしなくなっていくのだろうか。それは悪いことではないと思う。



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