研究概要
工学院大学総合研究所・都市減災研究センター(Research Center for Urban Disaster Mitigation;略称UDM)は、震災時における建築・都市の減災と機能継続に関する研究拠点
の形成を目的として2009年度より6年計画でスタートし、2010年度からは文部科学省・私立大学戦略的研究基盤形成支援事業(5年間)をはじめ、様々な関係者・機関による支援のもとで
実施してきました。当センターは、表1に示すように建築・機械・電気・情報系の学内外の多数研究者との共同研究により、5つの研究テーマと、計12の小課題による研究推進体制で運営
しました。テーマ1(都市型建物)とテーマ2(機能維持施設)では、首都東京の地震動を推定し、高層建物などの都市型建物・設備等の効率的な耐震補強・改修法の開発を行い、
ハード対策と1次被害の低減に関する研究を実施しています。テーマ3(震災廃棄物)では、震災後の都市圏での建設物の資源循環の仕組みと,既存建物の耐久性向上による
長寿命化の研究を行っています。またテーマ4(非常時通信)とテーマ5(地域連携)では、主として首都圏での地域連携によるソフト面の2次被害の低減を目的として災害対策拠点の
分散化を支援する耐災害性の高い電源・通信システムの構築、震災時の医療施設の機能維持、超高層建物の防災計画・事業継続計画、地域防災拠点を核とした防災街区の形成と
都市の機能継続モデルの構築に関する研究を遂行してきました。
当センターでは建築・都市における減災と機能継続に関する多くの成果を公表し、社会に還元しています。例えばテーマ1・2では、本プロジェクトで購入した高軸力載加型加力設備と
大変形水平加力設備により超高層建物など都市型建物の躯体構造や室内・設備の揺れ・被害を再現し、首都直下地震や南海トラフの巨大地震などを想定した場合にも有効な被害低減策を
研究しています。特に東日本大震災で大きな問題となった超高層建築の長周期地震動対策として、効果的なハード・ソフト対策の提案に加え、オフィスビルなどで多用される
シングルライン天井の効果的な天井板落下防止策を提案することができました(特許申請予定)。またテーマ1と3では、伝統建築の壁・天井を対象とした構造・材料工学と工法を
融合させた効果的な補修法を提案しました(特許申請中)。一方、テーマ4・5では、本プロジェクトで購入した太陽光など自然エネルギーと蓄電と長距離無線LANによる新宿・八王子間の
非常用通信網と、地震計とWeb GISを活用した広域情報共有システムを活用しています。特に自治体(東京都、新宿区)と地元事業者(新宿駅周辺防災対策協議会)、
拠点病院・医師会などと連携し、帰宅困難者や多数傷病者、建物の安全確認と継続使用への対応をテーマとしてセミナー・講習会を開催し、毎年、地域防災訓練を実施しました。
これらの成果は各種学会やメディア等で広く公表され、さらに新宿駅周辺地域における防災対策やエリア防災計画(都市安全確保計画)の推進、内閣府防災対策推進検討会議・首都直下地震対策検討WGによる
対策案や新宿区地域防災計画などへの反映、2013年日本建築学会の首都の震災対策への提言、社会貢献学会を中心とした社会貢献活動などに広く活用されています。
本報告書は、都市減災研究センター(UDM)で実施した平成22〜26年度の研究成果をとりまとめました。また、資料1では参加研究者による業績の一覧、資料2では研究成果報告
の概要を掲載しています。このほか、文末の参考資料にありますように都市減災研究センター等のホームページに記載していますので、併せてご参考頂きたいと考えています。
テーマ1 都市型建築の効果的な耐震補強・改修法の開発と推進(リーダー:小野里憲一) | ||
1.1 | 首都圏直下地震・活断層等による強震動予測と超高層建物等の減災対策 | ○久田嘉章、山下哲郎、吉村智昭 |
1.2 | 鉄筋コンクリート造建築の効果的な耐震補強・改修法の開発と推進 | ○近藤龍哉、小野里憲一 |
1.3 | 体育館の耐震性能評価と補強法に関する研究 | ○山下哲郎 |
1.4 | 都市型木造建物・伝統木造建物の耐震診断・補強法の開発と推進 | ○河合直人、後藤 治 |
テーマ2 建築機能維持施設の効果的な耐震補強・改修法の開発と推進(リーダー:山下哲郎) | ||
2.1 | 建築の非構造部材・設備の耐震補強と改修 | ○山下哲郎、西川豊宏、三好勝則、田中 孝(タナカ建築設備) |
2.2 | 建築のライフライン設備の耐震性向上と長寿命化 | ○小林光男、後藤芳樹、小久保邦雄、一之瀬和夫、長嶋利夫(上智大学)、坂口雅昭・若林博之(フセラシ) |
テーマ3 震災廃棄物の再資源化と高機能化(リーダー:阿部道彦) | ||
3.1 | 震災廃棄物の再資源化と高機能化 | ○阿部道彦、田村雅紀、後藤 治、石川嘉崇(電源開発) |
テーマ4 災害対策拠点の分散化を支援する耐災害性の高い電源・通信システムの開発(リーダー:水野 修) | ||
4.1 | 災害対策拠点の分散化を支援する耐災害性の高い通信システム | ○水野 修、小林亜樹、山口実靖、淺谷耕一、中里秀則(早稲田大学) |
4.2 | 分散型非常用電源供給システムの構築 | ○佐藤光太郎、荒井純一、市川紀充、大竹浩靖、雑賀 高、横田和彦(名古屋工業大学)、小泉安郎(信州大学)、米盛弘信(サレジオ工業高等専門学校) |
テーマ5 自治体・地域協働による震災時の都市機能維持(リーダー:村上正浩) | ||
5.1 | 震災時における医療・福祉等施設の機能維持 | ○筧 淳夫、山下てつろう、村上正浩、長澤 泰 |
5.2 | 超高層建築の防災計画・事業継続計画 | ○宮村正光、久田嘉章、村上正浩、吉田倬郎、久保智弘(防災科学技術研究所) |
5.3 | 地域防災拠点を核とした防災街区の形成と都市機能継続モデルの構築 | ○村上正浩、久田嘉章、三好勝則 |
参考文献・資料
・工学院大学・都市防災研究センター、およびその活動について (これまでの年次報告書や新宿駅周辺地域での防災訓練等の報告書があります)
http://www.ns.kogakuin.ac.jp/~wwgt024/index.html
・TKK3大学連携プロジェクト、防災・減災・ボランティアを中心とした社会貢献教育の展開、文部科学省・戦略的大学連携支援事業 「大学教育充実のための戦略的大学連携支援プログラム」・社会貢献学会