Multiscale Interfacial Thermofluids Laboratory

@Kogakuin University, Japan

研究室配属希望の方へ

2026年1月12日

はじめに

このページでは、マルチスケール界面熱流体研究室 (Multiscale Interfacial Thermofluids Laboratory: MITL) における活動内容や、卒業・修了時までに身に付く能力について紹介します。

配属時点で高い専門知識や研究経験があることは前提としていません。多くの学生は、研究室に入ってから初めて本格的な研究活動を経験します。私たちの研究室では、研究活動を通して必要な能力を1つずつ身に付けていくことを重視しています。

配属希望を検討する際の参考として、研究室の方針や考え方を率直に記載しています。要点は以下の通りです。


身に付く能力

業種を問わず、企業が新卒学生に求める能力には共通点が見られます。その中でも、問題解決能力コミュニケーション能力は特に重要視される能力です。これらを分解・整理すると、

に集約できます。マルチスケール界面熱流体研究室では、みなさんが研究活動を通してこれらの能力を身に付けることを目指しています。なお、上記の能力は一般性が高いため、卒業後の進路は「界面」や「熱流体」の関連分野に限定されません

一方、研究・開発職を目指す方には、修士課程・博士課程への進学を強く推奨します。なぜなら、研究・開発職が身に付けるべきスキルは幅広く、学部4年生の1年間だけではそれら全てを身に付けることはとても難しいからです。そこで、マルチスケール界面熱流体研究室では、重点的に身に付ける能力 (の基礎) を学年ごとに設定しています。したがって、4年生は研究活動という全体の中の一部を行い、修士課程に進むにつれてその領域が広がり、博士課程で全ての領域をカバーする、というイメージです。各学年で重視する主なスキルは以下の通りです。

学部4年生

修士1年生

修士2年生

博士課程


研究室で過ごす時間

ここまで読んだ方は、「ラクな研究室ではなさそうだな」と思ったかもしれません。残念ながら、それはその通りです。しかし、社会で通用する技術者や研究者になるには、様々な能力を身に付ける必要があります。では、(研究に限らず) 様々なスキルを身に付けるにはどれくらいの時間を要するでしょうか?以下で、いくつかの例を見てみましょう。

フランス語を自在に操る

フランス国民教育省の公式な資格として、フランス語資格試験のDELF/DALF (Diplôme d’études en langue française et Diplôme approfondi de langue française) があります。DELF/DALFはDELF A1, DELF A2, DELF B1, DELF B2, DALF C1, DALF C2という6段階のレベルがありますが、上級レベルであるDALF C1を取得するために必要な学習時間の目安は800~950時間とされています。

YouTuberとして生計を立てる

YouTuberとして生計を立てるには、収益化を達成するまでの第一段階、広告収入だけで生活ができるようになる第二段階がありそうです。それぞれの段階に到達する時間を推定するには多くの仮定が必要ですが、ここでは、過去に動画配信をした経験がなく、企業ブーストもない個人勢を想定し、第一段階:100本で収益化、第二段階:登録者数1万人で専業YouTuberとして生活が可能、と仮定して考えてみます。

山本は、コロナ渦以降、多くの授業動画 (約120本) を製作しました。1本の平均は20分程度です。これらの動画の製作時間をもとに、YouTuberとして生計を立てるまでに必要な作業時間について推測してみます。まず、動画制作過程は (1) 企画・準備、(2) 撮影、(3) 編集、という3工程に大別できます。そして、完成動画の時間を1単位時間とすると、山本が各工程で要したおおよその時間は、(1): 6単位時間、(2): 2単位時間、(3): 4単位時間、となり、合計で12単位時間が必要でした。つまり、20分の動画を1本製作する時間は20 x 12 = 240分 = 4時間です。これを100本出すとすると、要する時間は400時間となります。また、平日1日1本投稿するとすると、月に20本、つまり収益化まで5か月ということになります。

第二段階の予測はとても難しいですが、ChatGPTに聞いてみると、毎日投稿をした場合で、平均的には収益化から約1年程度かかるようです。したがって、収益化までと同様に月に20本のペースを維持した場合、さらに800時間が必要となり、デビューから数えて動画300本、作業時間1200時間となります。この推測は、みなさんの知っているYouTuberの話と比較してみて合っているでしょうか?大きくは外れていないのではないかと思います。
※ 余談ですが、山本が製作した動画は広告をOFF (かつ、プライベート公開) にしているので収益化は達成していません。また、仮に広告をONにしても、大学の授業動画にどれだけの需要があるのかは不明です。

飛行機のパイロットになる

飛行機のパイロットになるには、専門的な訓練を受ける必要があります。いくつかのルートが存在するようですが、ボーイング777のパイロットになるには約1~2年の地上配置、約1年半~2年の基礎訓練、約10か月の副操縦士任用訓練を受けるそうです。つまり、入社から5年程度かけて副操縦士になるそうです。ここで、1日8時間、年間250日勤務するとすると、年間2000時間となり、副操縦士になるまで1万時間を要することになります。


以上の例のように、身に付ける能力にもよりますが、1つのスキルを身に付けるには膨大な時間が必要になります。しかし、それは全く不可能な時間ではありません。マルチスケール界面熱流体研究室では、週30時間の活動を推奨しています (これは最初から達成できることを想定しているわけではありません。配属直後は、研究の進め方や実験に慣れるだけでも時間がかかります。学期を通して徐々に研究活動のペースをつかみ、結果として週30時間程度の活動ができるようになることを目標としています)。これは、一般企業の一週間の勤務時間 (約40時間) より短いですが、4月の配属から卒論提出がある1月末までの10か月間、週30時間の活動を続けると、1200時間になります。つまり、YouTuberとして生計を立てられるかもしれないだけの時間がみなさんにはあるのです。

慣れないうちは、週30時間は大変だなと思うかもしれません。しかし、コツコツと積み上げていけば、1年後には見違える自分になっているはずです。なお、研究活動時間外でアルバイトをすることも可能ですし、夏季には夏休みも設定しています。


能力を身に付けるプロセス

学部3年生までは、座学や準備された (結果がわかっている) 実験・実習がメインだったと思います。反対に、研究室では誰も結果を知らない問題と向き合うことになります。誰も結果を知らないということは、正解となるアプローチもわからないということです。ちなみに、「誰も結果を知らない」には指導教員も含みます。つまり、その問題に取り組む際には、実験などが失敗する可能性が常にあるといえます。もっと正直にいうと、山本は、ほとんどの実験は失敗するものと思っています。

「そうは言っても、失敗続きでは仕方ない」と思うでしょう。そこが大事なところで、マルチスケール界面熱流体研究室では、失敗を分析し、次の手を打つことを重視しています。有名なビジネス用語で、PDCAサイクルというものがありますが、私たちの研究室では、それに似たOODAループと呼ばれる一連の過程を、なるべく多く繰り返すことで研究を推進するとともに、上記能力を身に付けることを目指しています。OODAループとは、Observe (観察)、Orient (状況判断)、Decide (意思決定)、Act (行動) の頭文字を取ったもので、これを研究活動に当てはめると、以下のようになります。

実験ではうまくいかないことも多いですが、OODAループを回すことによって、失敗した結果 (Act) がなぜうまくいかなかったのか、どのように改善すればよいかを考えることになります。そして、ループの回数を増すにつれて、論理的思考力計画・実行力が身に付いていきます。また、ループの過程では指導教員や研究室の仲間と議論をするため、議論・表現力も磨かれていきます。

このように、マルチスケール界面熱流体研究室ではどんどん失敗することを推奨しています。また、OODAループをなるべく多く回せるように、最低でも週1回は山本とミーティングを行うことでOrient (状況判断) と Decide (意思決定) をサポートします。

ここまでは、研究活動を行うことによって能力を身に付ける、いわばOJT (On-the-Job Training) について述べてきました。この方法は、様々な能力を身に付ける際にとても効果的ですが、実験装置の基本的な使用法やプログラミングなどを学ぶには、座学方式で集中的に学ぶことが効果的です。そのため、4年生の皆さんには週1回の基礎講習 / 輪講を行います。基礎講習では、研究活動を実施するにあたり必要となる基礎事項を学びます。輪講では、研究に必要な知識を身に付けるとともに他人に伝える能力を養う目的で、各自の研究に関連する教科書を読み、理解した内容を発表してもらいます。


1週間のスケジュール例

マルチスケール界面熱流体研究室では、1週間に1度はOODAループを回すことを想定しています。OODAループの各過程にかかる時間は状況によってまちまちですが、週1回のミーティングを含めて、おおよそO: 半日、O: 1~2日、D: 1~2時間、A: 2日、と見積もっています。つまり、1ループに4日を要します。これに週1回の基礎講習 / 輪講の1日を加えて、平均1日6時間を5日間というのが平均的な1週間のスケジュールです。コアタイムはなく、作業場所も指定していないので、アルバイトなど自分の都合に合わせて研究を進めることができます。ただし、なるべく研究室に顔を出して、教員や研究室の仲間と雑談ベースで議論を重ねたほうが能力向上にはプラスに働くのでお勧めしています。

また、私たちの研究室では、4年生から積極的に学会発表することを推奨しています (強制ではありません)。研究成果が出るかどうかは運次第なところもありますが、コツコツと実験を積み重ねていけば、発表できるだけの成果が出る可能性が高いです。2025年度の4年生は、国内会議 (函館、京都) で2名、学外研究者との研究会 (福岡) で1名が学外発表をしています。もちろん、学外発表を行う場合には、十分な研究成果に加えて発表資料の準備や発表練習が必要になるため、初めてづくしの4年生にとっては準備がかなり大変です。しかし、人に伝わるプレゼンを練ることや、学外の専門家と議論する経験はとても貴重な機会となることは間違いありません。なお、学術会議には主に日本国内の研究者が参加する国内会議と、全世界の研究者が参加する国際会議 (しばしば国外出張を伴う) があります。通常、国際会議の参加申し込み期限は会期の半年ほど前に設定されているので、残念ながら4年生で国際会議に参加することは難しいです。国際会議に参加して国際経験を積みたい方には、修士課程への進学をお勧めします。また、さらに研究成果をあげられた場合には国際学術誌への論文投稿の可能性もあります。


研究テーマの決め方

基本的には、山本が用意したテーマの中から、各自の興味に沿って希望テーマを選択してもらう方式を採っています。希望が重複したり、研究プロジェクトの都合上調整が必要だったりする場合もあるので、必ずしも希望通りのテーマを保証できるわけではありません。しかし、テーマ仮決定後に1か月程度のお試し期間を設けています。お試し期間中は簡単な予備実験などを行い、テーマとの相性を確認してもらいます。その後、本格的な研究へと移行していきますが、その後もテーマとの相性や研究の進め方について悩みがある場合には都度対応を考えますので、早めの相談をお願いします。

修士課程・博士課程に進む方は、進学時にテーマを変更することも可能です。また、テーマの中には、国内外の研究者や企業との共同研究テーマもあります。共同研究テーマの場合は、共同研究先を訪問しての進捗報告や、数か月程度の短期インターン・短期留学を実施する場合もあります。


マルチスケール界面熱流体研究室に向いている人・向いていない人

マルチスケール界面熱流体研究室は、研究室卒業生が自立して、自分の考えで行動できる上に他者とも協同できるような人物になれることを目指して、成長の機会を提供しています。この中には、技術的な側面だけでなく、論理的思考法、文書作成能力、コミュニケーション能力などの総合的なソフト面も含むため、必然的に作業量は多くなります。また、私たちは実験系の研究室なので、実験室に来て手を動かすことは必須です。そして、実験はしばしば失敗するので、日々の積み重ねなしに成果を得られることはありません。マルチスケール界面熱流体研究室は、主体的に成長したいと考える人に向いている研究室です。一方で、研究への取り組みを最小限に抑えたい場合や、指示待ちの姿勢で進めたい場合には、負担に感じる可能性があります。研究に真剣に向き合う意欲があるかどうかが重要です。

研究室は、就職を前にして、じっくりと腰を据えて学ぶことができる最後の機会です。不安や分からないことがあるのは当然です。私たちの研究室では、試行錯誤を重ねながら成長していく過程を大切にしています。みなさんの研究室生活が実りあるものになることを願っています。