2009年 生物学史分科会 月例会
- 日時:2月28日(土) 午後3:00〜5:30
- 場所:東京大学駒場キャンパス14号館3階308号室(※京王井の頭線「駒場東大前」駅下車、渋谷寄り改札を出て正面手前に構内案内板があります。)地図
- 発表者:皆吉淳平氏(芝浦工業大学工学部ほか・非常勤講師)
- 演題:バイオエシックスにおける「社会的合意」とは何か−−脳死臓器移植をめぐる「社会」の過去・現在・未来
- 内容紹介:脳死臓器移植は、日本においてもっとも広く議論がなされた「生命倫理」の問題といえます。この脳死臓器移植論議を特徴づけるのが、「社会的合意」をめぐる議論の存在でした。これまで「社会的合意」をめぐる議論は、社会的意思決定をめぐる制度の問題として、あるいは政治的言説として研究されてきました。本報告では政治的な意思決定という水準に留まらない「社会的合意」論に込められた議論水準を析出し、脳死臓器移植における「社会的合意」が何を意味していたのかを明らかにすることを目的とします。
脳死臓器移植論議が盛んであった1980年代は、バイオエシックスが「輸入」された時期とも重なっています。そこで、アメリカのバイオエシックスの展開と日本の生命倫理とを比較する視角から、ご報告いたします。
皆様のふるってのご参加をお待ちいたしております。どうぞよろしくお願い申し上げます。
- 日時:5月16日(土) 午後3:00〜5:30
- 場所:東京大学駒場キャンパス14号館3階308号室(※京王井の頭線「駒場東大前」駅下車、渋谷寄り改札を出て正面手前に構内案内板があります。)地図
- 発表者:隠岐さや香氏(東京大学特任研究員)
- 演題:脳神経科学史の可能性:19世紀フランスの骨相学論争を事例に
- 内容紹介:今日の脳科学への関心の高まりと、それに呼応した脳神経倫理の立ち上がりは科学技術史にも新しい潮流をもたらしています。例えば1995年、カナダのモントリオールでは脳神経科学史学会が設立されました。今日の科学史は従来のディシプリン別科学史に代表される「方法」や「対象」のみならず、「課題」によっても検討されねばならない状況にあるといえましょう。
本発表では、19世紀フランスの骨相学論争を題材に、脳に関する疑似科学言説の社会的影響という問題を取り上げます。「骨相学」は19世紀初頭、脳の科学を掲げながらも大きな社会問題を引き起こした「失敗例」の一つとして知られ、脳神経倫理においても言及されてきました。発表者のねらいはこの事例をより社会的・歴史的な角度から考察することにあります。すなわち、骨相学の問題を疑似科学の一例としてのみ考察するのではなく、「脳科学的知識の普及過程で起こりうる社会的影響」の歴史的一事例として扱うのです。その上で、脳神経倫理に対する脳神経科学史の役割や、歴史的知見により現代の我々の社会を別の角度から理解することの可能性について議論していく予定です。
- 日時:6月27日(土) 午後3:00〜5:30
- 場所:東京大学駒場キャンパス14号館3階308号室(※京王井の頭線「駒場東大前」駅下車、渋谷寄り改札を出て正面手前に構内案内板があります。)
http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam02_01_13_j.html
- 発表者:江間有沙氏(東京大学大学院総合文化研究科博士課程)
- 演題:「監視」と「信頼」:情報技術を用いた保護者による子供の監視を事例として」
- 内容紹介:人間関係・交換関係の潤滑油としての機能を持つ「信頼trust」の重要性は言うまでもなく、非公式なメカニズムである「信頼」がうまく機能しない場合、非効率でコストのかかる「監視システム」の導入が必要となります。しかし、昨今「信頼できないから」というよりは「安全・安心のため」という名目で「監視システム」を導入する事例が見られます。この場合、監視者と被監視者の間には、どのような「信頼」問題が生じるのでしょうか。
本発表では、「監視」と「信頼」概念を軸として、最先端の情報技術を用いた保護者による子供の監視を考察します。
- 日時:7月11日(土) 午後3:00〜5:30
- 場所:東京大学駒場キャンパス14号館3階308号室(※京王井の頭線「駒場東大前」駅下車、渋谷寄り改札を出て正面手前に構内案内板があります。)
http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam02_01_13_j.html
- 発表者:宗像慎太郎氏(民間シンクタンク勤務)
- 演題:科学的不確実性のガバナンスとその課題 −地球温暖化問題におけるIPCCの取り組みを例として
- 内容紹介:環境問題、特に地球温暖化問題への社会的関心は高まり、全世界を巻き込んだ政策的・社会的取り組みが本格化しています。この問題では、基本メカニズムの発見から「解決」シナリオの提示に到るあらゆる点で、「科学」と科学者が極めて重要な役割を果たしてきました。しかし地球温暖化問題を巡る「科学」と科学者は必ずしも一枚岩ではなく、現在に到っても様々な科学的不確実性が指摘され、論争の種を提供しています。
このように環境問題では、様々な科学的不確実性の下で、科学に基づく判断が求められるという逆説的状況を迎えることが多くなっています。本発表では地球温暖化問題を対象として、科学的不確実性への対処方法としてのboundary organizationとエキスパート・ジャッジメントを取り上げ、それらに期待される機能と課題について考察します。
- 日時:10月24日(土) 午後3:00〜5:30
- 場所:東京大学駒場キャンパス14号館3階308号室(※京王井の頭線「駒場東大前」駅下車、渋谷寄り改札を出て正面手前に構内案内板があります。)
http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam02_01_13_j.html
- 発表者:竹本太郎氏(東京大学大学院 農学生命科学研究科 特任助教)
- 演題:学校林をめぐるむら(共同関係)の軌跡:「公共林野」と歴史的アプローチに触れて
- 内容紹介:
過疎による小学校の統廃合、森林の荒廃など、農山村における喫緊の課題は数多くあります。そのような現状のなかで、「むら(共同関係)」が守り続けてきた「学校林」という特殊な森林のことはほとんど知られていません。
明治期に近代学校制度を整える際に「むら(共同関係)」の林野を小学校の校舎建築や財政補助のために特別に確保した森林が「学校林」です。その後、「学校林」は、戦時期には愛国心昂揚のための造林地として国家に利用され、戦後期には国土復興のための緑化運動の中心になっていきます。
本発表では、「学校林」をめぐる「むら(共同関係)」の軌跡を追いつつ、(1)「地域住民の公共の福祉」に利用される森林「公共林野」の意味、(2)林政学における歴史的アプローチの意味、について議論できたらと思います。
参考:
竹本太郎『学校林の研究』(農山漁村文化協会、2009年)
http://www.ruralnet.or.jp/n_lib/book/wadai/2009/03wadai0908-1.html
(本書のもとになった以下の論文はダウンロードが可能です。)
竹本太郎,2004,明治期における学校林の設置,東京大学農学部演習林報告,111,pp.109-177
http://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/dspace/handle/2261/22554
竹本太郎,2005,大正期・昭和戦前期における学校林の変容,東京大学農学部演習林報告,114,pp.43-114
http://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/dspace/handle/2261/22571
竹本太郎, 2006, 昭和戦後期・現代における学校林の再編,東京大学農学部演習林報告,116, pp.23-99
http://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/dspace/handle/2261/22580
- 日時:11月28日(土) 午後3:00〜5:30
- 場所:東京大学駒場キャンパス14号館3階308号室(※京王井の頭線「駒場東大前」駅下車、渋谷寄り改札を出て正面手前に構内案内板があります。)
http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam02_01_13_j.html
- 発表者:高橋さきの氏(翻訳者・東京農工大学非常勤講師)
- 題目:ジェンダーと労働:石原修のしごとをめぐって
- 内容紹介:
セクシュアリティ・ジェンダー観や「性差」観は、労働のあり方と密接に関わっており、その時代の産業状況を反映しています。
今回は、明治から戦後にいたる時期の繊維工業や鉱業の様子、また、重工業の立ち上がりの現場、そしてそうした現場と公衆衛生との関わりについて、石原修の仕事や足跡を辿りながら考えてみたいと思います。
石原修は、明治末期に『女工と結核』を発表して工場法の施行に尽力したことで有名ですが、鉱山の労働衛生の改善にも尽力し、その後『新稿労働衛生』を著しつつ、産児制限や、さらには戦後の労働基本法に至るまで、示唆的な発信を続けました。
今回は、対応する時期の米国の労働運動(IWWの活動を中心に)やフェミニズムの第一波、そして、90年代この方の性差観の変化についても触れる予定です。