2015年 生物学史研究会
- 今回の生物学史研究会では、記憶に対する人為的な介入を可能にする技術をめぐる倫理的問題について、現代日本のポピュラーカルチャーを対象とした研究発表を日本文学研究者の西貝怜さんが行ないます。多くの皆様のご来場をお待ちしております(どなたでもご参加いただけます。参加費無料)。会場や配布資料の準備のため、下記のフォームよりご登録いただければ幸いです。
- 日時:3月28日(土)15:00〜17:00頃
- 場所:東京大学駒場キャンパス14号館3階308号室(※京王井の頭線「駒場東大前」駅下車、渋谷寄り改札を出て正面手前に構内案内板があります。)http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam02_01_13_j.html
- [発表概要]
記憶の消去と再生の倫理――現代日本のポピュラーカルチャーをめぐって
西貝 怜(白百合女子大学大学院文学研究科 言語・文学専攻 日本語学・日本文学分野博士課程)
レオン・カスらによって提出されたBeyond Therapy (2003)以降、記憶の消去について倫理学的立場から活発な議論が行われています。昨年、ラットにおける記憶の選択的消去と再生にも成功したこと(Nabavi et al, 2014)から、記憶の消去に関する倫理は新たな局面を迎えつつありましょう。こういった生命倫理的問題について金森(2013)は〈虚実綯い交ぜ〉の考察を展開していますが、その際に多くの人に密接に関わるポピュラーカルチャー作品を扱う重要性も説いています。発表者もポピュラーカルチャー作品で描かれる科学や医学に関する倫理的問題について、様々な立場から検討しております(西貝、2013など)。そこで本発表では、現代日本のポピュラーカルチャー作品群で描かれる記憶操作の表象を概観した上で、湯浅政明監督アニメ『カイバ』(2008)を中心にして記憶の消去についての倫理的問題を記憶の再生との関係から考えていこうと思います。
- [参考文献]
金森 修(2013)「第1章 虚構に照射される生命倫理」『生命倫理のフロンティア(シリーズ生命倫理学第20巻)』丸善出版、1-20.
Kass, Leon R, ed. (2003) Beyond Therapy: Biotechnology and the Pursuit of Happiness: A Report of The President's Council on Bioethics,New York: Dana Press.(レオン・R・カス編(2005)『治療を超えて: バイオテクノロジーと幸福の追求: 大統領生命倫理評議会報告書』(倉持武監訳)青木書店)
Nabavi Sedegh, Fox Rocky, Ploux, Christophe D., Lin, John Y., Tsein, Roger Y., Malinow Roberto (2014) “Engineering a memory with LTD and LTP”, Nature, 511, 348-352.
西貝 怜(2013)「宇宙・科学者・幸福―荒木哲郎監督アニメ『ギルティクラウン』における結晶と人の関係について―」『コンテンツ文化史学会2013年大会予稿集』47-50.
湯浅政明監督(2008)『カイバ』1-3巻,VAP,DVD.(販売向けのもの。レンタル版は全4巻)
- 6月21日(日)に、以下のように生物学史研究会を開催いたします。多くの皆様のご来場をお待ちしております(どなたでもご参加いただけます。参加費無料)。会場や配布資料の準備のため、下記のフォームよりご登録いただければ幸いです。
- 日時:6月21日(土)<日程変更しました> 15:00〜18:00
- 場所:東京大学駒場キャンパス14号館3階308号室(※京王井の頭線「駒場東大前」駅下車、渋谷寄り改札を出て正面手前に構内案内板があります。)http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam02_01_13_j.html
- 種痘と人別――幕末日本における牛痘種痘法普及の政治性
香西豊子(佛教大学社会学部講師)
- [発表概要]
18世紀末にイギリスで実用化された牛痘種痘法は、およそ半世紀を経た嘉永2(1849)年には日本列島においても行われるようになる。この事象は、従来、牛痘種痘法ないしは牛痘苗の「伝来」「伝播」「移入」等の用語で記述されてきた。しかしながら、当時の文書のなかに見えるように、牛痘苗は「取寄」られたのであり、その背景には、飢饉や疫病による「人別」の減少があった。
今回の報告では、まず、日本列島における牛痘種痘法の普及過程を4つの局面(牛痘種痘法に関する風聞・書籍の伝播、オランダ人らによる牛痘苗の「持渡」、佐賀藩・福井藩による牛痘苗の「取寄」、列島内における牛痘苗の拡散)に分けて整理する。そして、牛痘苗の「取寄」という視点から、それを必要とした諸藩の状況と列島内での分配の様相を、資料に即して確認する。これにより、牛痘種痘法が藩によっては、領地を耕し納貢する存在としての「人別」を回復・保全し、ひいては「富国強兵」に達する手段として見出されていたことを明らかにする。
[主な参考文献]
・アン・ジャネッタ(廣川和花・木曾明子訳)『種痘伝来――日本の〈開国〉と知の国際ネットワーク』岩波書店、2013年
・深瀬泰旦『天然痘根絶史――近代医学勃興期の人びと』思文閣出版、2002年
・「アイヌはなぜ『山に逃げた』か?――幕末蝦夷地における『我が国最初の強制種痘』の奥行き」『思想』1017号、2009年
- 12月19日(土)に、以下のように生物学史研究会を開催いたします。今回の生物学史研究会では、ドイツ・ロマン主義の作家アヒム・フォン・アルニムについて、独文学研究者の西澤満理子さんにご発表いただきます。従来、文学・絵画・音楽など芸術領域で検討されることの多かったロマン主義のなかに反映した同時代の科学理論を検討することで、〈ロマン主義における自然科学〉のみならず、〈自然科学におけるロマン主義〉という問題を検討する貴重な機会となるでしょう。多くの皆様のご来場をお待ちしております。会場や配布資料の準備のため、下記のフォームよりご登録いただければ幸いです(参加無料。どなたでもご参加いただけます)。登録フォーム:http://goo.gl/forms/G1hKp1xzOW
- 日時:12月19日(土)15:00〜17:30
- 場所:東京大学駒場キャンパス14号館3階308号室(※京王井の頭線「駒場東大前」駅下車、渋谷寄り改札を出て正面手前に構内案内板があります。)http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam02_01_13_j.html
- ロマン主義的想像力の中の科学理論:アヒム・フォン・アルニム『エジプトのイサベラ』に見られる引力・斥力理論の影響について
西澤満理子氏(東京大学大学院 総合文化研究科 言語情報科学専攻)
- [発表概要]
ドイツ・ロマン主義の作家アヒム・フォン・アルニム(1781〜1831)は文学者でありながら科学者としての一面を持っており、初の出版物は「電気現象に関する試論」(1799)であった。アルニム自身、自然科学と芸術を繋げようと試みたことがあり、アルニムの科学者としての面と文学者としての面の接続を試みる先行研究は存在している。しかし、文学作品にアルニムの科学者としての一面がどのように反映されているかを具体的に考察する試みはほとんど行われてこなかった。今回の発表では、1812年に出版された『エジプトのイサベラ』を取り上げ、アルニムが「電気現象に関する試論」で展開した引力・斥力理論がどのように作品に反映されているか分析を行う。また、科学理 論を用いて『エジプトのイサベラ』を読解することで、グリム兄弟によって批判されたアルニムの「ずらし」の意図や、「構成力がない」と低評価された物語展開の背後にある一貫性を明らかにする。
[主な参考文献]
・本発表の参考文献
アヒム・フォン・アルニム『エジプトのイサベラ』深田甫訳、国書刊行会、1975年
イマヌエル・カント「自然科学の形而上学的原理」『カント全集・第10巻』高峯一愚訳、理想社、1966年
宮田眞治「〈実験〉のゆくえ: A・V・アルニム、J・W・リッターの場合」『シェリング年報』15号、2007年
・発表者の著作
西澤満理子「老いることができなかったハンバート:ナボコフ『ロリータ』における時間と空間の問題」『世界文学』第121号、2015年