2017年 生物学史研究会
- 古俣めぐみ(東京大学大学院)「ヘルムホルツの生理学における数量化――筋肉と神経に関する実験に着目して」
- 日時:2017年4月8日(土) 午後2:00〜4:00
- 場所:東京大学駒場キャンパス14号館3階308号室(※京王井の頭線「駒場東大前」駅下車、渋谷寄り改札を出て正面手前に構内案内板があります。)http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam02_01_13_j.html
- 今回の生物学史研究会では、東京大学大学院修士課程の古俣めぐみさんに、現在進めている研究について発表していただきます。古俣さんは現在修士論文を執筆中で、今回の発表はその中間報告となります。また、工学院大学の林真理さんから、古俣さんの発表に対するコメントをいただきます。研究会終了後は、その場で簡単な懇親会を開催することを予定しております。会員・非会員にかかわらずどなたでもご参加いただけますので、みなさまふるってご参加ください。
- [タイムスケジュール]
14:00〜14:05 はじめに:発表者紹介、テーマ紹介
14:05〜14:55 発表:古俣めぐみ
14:55〜15:10 コメント:林真理(工学院大学)
15:10〜15:15 休憩
15:15〜16:00 全体でのディスカッション
- [発表概要]
エネルギー保存則の確立者として知られるヘルマン・フォン・ヘルムホルツ(1821-1894)は生理学者としても多大な業績を上げており、実験的手法を駆使しつつ機械論の立場をとった代表的人物として捉えられている。ところで、近代科学の要素としては実験と機械論の他に数量化も挙げられる。しかしヘルムホルツの生理学において数量化はどのように、どの程度までなされていたのかは必ずしもはっきりしていない。
本報告では、筋肉における温度上昇の測定および神経の刺激伝達速度の測定に着目し、ヘルムホルツの生理学における数量化の実態の一端を解明することを目標とする。それぞれの実験装置の仕組みや実験の手順、測定値の収集や処理の仕方から、数量化(あるいは統計化)がどの程度までなされておりまたどのようなプロセスをたどっているのか、そしてそれは統計的法則の確立と発展が急速に進んだ当時の状況においてどのようけられるのかを明らかにしたい。
- [参考文献]
(1) スミス、C. U. M. (八杉龍一訳)『生命観の歴史 下』岩波書店、1981年、344-54ページ。
(2) ハッキング、イアン(石原英樹・重田園江訳)『偶然を飼いならす??統計学と第二次科学革命』木鐸社、1999年。
(3) 山口宙平「エネルギー保存則の発見に至るHermann von Helmholtzの初期生理学研究に関する考察」『科学史研究』第23巻第151号、1984年、169-76ページ。
(4) Helmholtz, Hermann von. "Ueber die Wärmeentwicklung bei der Muskelaktion." Archiv für Anatomie, Physiologie und Wissenschaftliche Medicin (1848): 144-64.
(5) Helmholtz, Hermann von. "Messungen über den zeitlichen Verlauf der Zuckung animalischer Muskeln und die Fortpflanzungsgeschwindigkeit der Reizung in den Nerven." Archiv für Anatomie, Physiologie und Wissenschaftliche Medicin (1850): 276-364.
(6) Helmholtz, Hermann von. "Messungen über Fortpflanzungsgeschwindigkeit der Reizung in den Nerven, Zweite Reihe." Archiv für Anatomie, Physiologie und Wissenschaftliche Medicin (1852): 199-216.
(7) Holmes, Frederic L. and Kathryn M. Olesko. "The Images of Precision: Helmholtz and the Graphical Method in Physiology." M. Norton Wise ed. The Values of Precision (Princeton, NJ: Princeton University Press, 1995): 198-221.
(8) Kremer, Richard L. "Precision or Understanding? Measuring the Temperature of Active Muscles." The Thermodynamics of Life and Experimental Physiology, 1770-1880 (New York and London: Garland Pub, 1990): 275-307.
(9) Olesko, Kathryn M. and Frederic L. Holmes. "Experiment, Quantification, and Discovery: Helmholtz's Early Physiological Researches, 1843-50." David Cahan ed. Hermann von Helmholtz and the Foundations of the Nineteenth-Century Science (Berkeley: University of California Press, 1993): 50-108.
- 米本昌平「「機械論 vs 生気論」論争はあったのか――19世紀〜20世紀中葉における生気論概念の検討」
- 日時:2017年7月15日(土) 午後2:00〜4:00
- 場所:東京大学駒場キャンパス14号館3階308号室(※京王井の頭線「駒場東大前」駅下車、渋谷寄り改札を出て正面手前に構内案内板があります。)http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam02_01_13_j.html
- 今回の生物学史研究会では、生気論概念について米本昌平さんからご報告をいただきます。生物学史の基本的な問題についてみなさまと議論したいとお考えになったとのことですので、ぜひこの分野にご関心のある多くの方にご参加いただければと思っております。会員・非会員にかかわらず、どなたでもご参加いただけます。研究会終了後は、その場で簡単な懇親会を開催することを予定しております。
- [タイムスケジュール]
14:00〜14:05 はじめに:発表者紹介、テーマ紹介
14:05〜15:05 発表:米本昌平
15:05〜15:15 休憩
15:15〜16:00 全体でのディスカッション
- [発表概要]
「歴史的に機械論 vs 生気論という生命観の対立があり、科学が発達するにつれて機械論が勝利を収め生気論は撲滅されてきた」という教科書的史観は、20世紀初頭にH・ドリーシュ(1867〜1941)が主張した新生気論(Neovitalismus)を正統派が批判する過程で生み出された副産物である。実際、史上誰が生気論者であるかはドリーシュ著『生気論史』(1905)の評価がほぼそのまま転用されてきている。
19世紀を通して、生理学は物理学を生命現象に適用してその原理を解明しようとする最先端分野であったが、?因果論的'説明として提案される生命力(Lebenskraft)は、J・ミュラー(1801〜1858)の弟子たちには旧弊と映り、以後の世代はこれを否定するようになる。ただし、生命を物理・化学で説明しようとするMechanismus(機械論という訳語が定着しているが内容的には力学主義)に対して、それでは説明しきれないと指摘する立場がVitalismus(生気論より生命主義の方が内容を反映している)である。事実、R・ウイルヒョウ(1821〜1902)は「私のVitalismusは力学的細胞説である」と言っている。『種の起源』(1859)を読んだE・ヘッケル(1834〜1919)は、自然選択説こそ生命のすべてを因果論的に説明するものと確信し、『一般形態学』(1866)などで、Mechanismus vs Vitalismusという二項対立にし、前者のみが科学的だと力説したが、これが影響力をもつようになった。
ドリーシュは、生命に関する物理・化学的説明を精密に読み込んだ末に『自然概念と自然判断 Naturbegriffe und Naururteile』(1904)を著し、ここで、熱力学第二法則は狭義の熱力学と、万物は拡散するという現象法則の二重性を帯びており、生命はこの後者を破るものであり、その解決策としてエンテレヒー(Entelechie)仮説を提案した。20世紀の生命論の議論と生物学に関する科学哲学は、このドリーシュによる問題提起を重大な出発点の一つにしている。そして世紀次元で展望すると、1960年代の分子生物学的生命観が結局は生化学の拡張にしかならなかったのは、現行の物理・化学は、熱運動をすべて消去した上で説明をする「便宜的絶対0度」の体制だからである、という結論が導き出される。
- [参考文献]
(1)丘英通『機械論と生気論』(岩波講座 哲学、1931)
(2)戸坂潤『生物学論』(岩波講座 生物学、1932)
(3)ドリーシュ『生気論の歴史と理論』(書籍工房早山、2007)
(4)米本昌平『バイオエピステモロジー』(書籍工房早山、2015)
- 江口怜(東北大学)、渡邊真之(東京大学大学院)、鈴木康弘(東京大学大学院)「養護学校義務化反対運動とその時代:障害者解放運動から「共に学ぶ」の探求へ」
- 日時:2017年7月22日(土) 午後2:00〜4:30
- 場所:東京大学駒場キャンパス14号館3階308号室(※京王井の頭線「駒場東大前」駅下車、渋谷寄り改札を出て正面手前に構内案内板があります。)http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam02_01_13_j.html
- 今回の生物学史研究会は、東京大学大学院教育学研究科基礎教育学コースの日本教育史ゼミの有志による「1970-80年代の障害児の普通学校・学級の就学運動」というテーマの共同報告となります。また、今回の研究報告に際しまして、文化人類学を専門とされており、埼玉県の見沼田んぼで障害の有無を超えて農業に取り組む「NPO法人のらんど」代表理事も務められている猪瀬浩平さん(明治学院大学)をお招きし、コメントを頂くとともに、科学史、医学史、障害学、生命倫理などのさまざまな領域を専門とされている方々と対話できる場にできればと考えております。研究会終了後、簡単な懇親会も予定しております。会員・非会員に関わらず、どなたでもご参加いただけますので、お越しください。
- [タイムスケジュール]
14:00〜14:05 はじめに:発表者紹介、テーマ紹介
14:05〜15:30 発表:江口怜、鈴木康弘、渡邊真之
15:30〜15:40 休憩
15:40〜16:00 コメント:猪瀬浩平(明治学院大学)
16:00〜16:30 全体でのディスカッション
- [発表概要]
本報告は、1970-80年代における障害児の普通学校・学級の就学運動に携わった人たちの理念と活動を取り上げ、養護学校義務化や障害児の早期発見・早期診断という論点をめぐって、小児医学、学校教育、教育学がどのように問い直されようとしていたのかを論じるものである。
1979年の養護学校義務化の施行は、それ以前には就学免除がなされていた障害児たちの教育機会を保障する戦後教育の成果の一部として語られてきた一方で、同時代の障害者解放運動の問題提起に強い影響を受けながら、養護学校や特殊学級の設置を、分離や隔離、差別であるとして批判する人たちも、少数ながら存在していた。しかしながら、こういった問題提起は、後の統合教育やインクルーシブ教育の理念に通じるものがありながら、現在に至るまで、歴史のなかに位置づけられてきたとは言い難い。
今回の報告で取り上げる小児科医、特殊学級の教師、教育学者たちは、「共に生きる」や「共生共育」、「どの子も地域の学校へ」といった理念を掲げながら、能力によって子どもを選別・排除する教師・学校のあり方に反発し、子どもたちを科学的な発達観で捉えることを問い直そうとしていた。1970?80年代の障害児の普通学校・学級の就学運動に関わった人たちは、科学や医療、優生思想に対する批判をどう受け止めたのか、また、現在のインクルーシブ教育の理念につながるような、教室空間の秩序の組み換えをいかに構想していたのかを明らかにしてみたい。
- [参考文献]
(1)堀正嗣『障害児教育とノーマライゼーション:「共に生きる教育」をもとめて』明石書店1998年。
(2)堀智久『障害学のアイデンティティ:日本における障害者運動の歴史から』生活書院、2014年。
(3)二見妙子『インクルーシブ教育の源流:1970年代の豊中市における原学級保障運動』現代書館、2017年。
(4)小国喜弘「地域と学校の再編成:「障害児」の排除と包摂に着目して」『岩波講座 教育 : 変革への展望』岩波書店、2016年。
(5)東京大学大学院教育学研究科小国ゼミ編『障害児の普通学校・普通学級就学運動の証言』2017年。
(6)猪瀬浩平「「郊外」の分解者たち わらじの会と埼玉障害者市民ネットワーク」栗原彬編『ひとびとの精神史 第9巻(震災前後)』岩波書店、2016年。
(7)『現代思想(特集 障害者)』青土社、2017年5月号。
- 三浦隼暉(東京大学人文社会系研究科哲学専門分野修士課程)「後期ライプニッツ哲学における有機体論 −機械論から有機体論への移行−」
- 日時:2017年10月21日(土) 午後2:00〜4:00
- 場所:東京大学駒場キャンパス14号館3階308号室(※京王井の頭線「駒場東大前」駅下車、渋谷寄り改札を出て正面手前に構内案内板があります。)http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam02_01_13_j.html
- [発表概要]
本発表では、1700年代初頭にライプニッツが用いた「有機体 organisme/organicus」概念の特徴を明らかにし、この概念が彼自身の哲学においていかなる役割を果たしたのかを検討する。
モナドロジー理論は、たしかに現象の実在性を背後の実体に還元するものとして理解可能な部分もある。しかし、同時にライプニッツが展開していた有機体論はそのような観念論的解釈に対して、現象側からの実在性へのアプローチを可能にするものとして注目されねばならない。
『モナドロジー』64節に見られるように、有機的物体は「自然の機械」として理解され、それは人工的な機械から本質的に区別される。この区別を検討することによって、「有機体=有機的な機構」は無限性と内的合目的性を含意していることが明らかになる。
ライプニッツは、デカルトをはじめとする機械論者において質料の本質が単に機械的な機構として捉えられていたこととは対比的に、そのような有機的な機構を質料の本質として位置づける。たしかにライプニッツの有機体論は生気論を拒絶し、ある意味で機械論の延長上にあるといえる。しかし、無限性を介してデカルト的な機械論からは隔てられており、その意味で独自の理論を展開しているのである。そして、この独自の有機体論によってライプニッツの形而上学と自然学ないし現象に関する学は相互に基礎付け合うものとして理解可能となる。
- [参考文献]
・下村寅太郎他監修『ライプニッツ著作集』全10巻, 工作舎, 1988‐1999.(本発表に関係する『モナドロジー』は第9巻収録)
・酒井潔, 佐々木能章監修『ライプニッツ著作集 第II期』全3巻(予定), 工作舎、2015‐.(本発表に関係する「マサム夫人宛書簡」は第1巻収録。)
・橋本由美子監訳, 秋保亘, 大矢宗太朗訳『形而上学叙説 / ライプニッツ−アルノー往復書簡』, 平凡社ライブラリー, 2013.
・佐々木能章「ライプニッツの機械論」,『哲学』35 (1985), 119‐129.
・松田毅「ライプニッツの生物哲学 ? 「進化する自然機械」」,『神戸大学文学部紀要』44 (2017), 1‐48.
・山本信『ライプニッツ哲学研究』, 東京大学出版会, 1953.(ライプニッツ哲学全般に関して)
・François Duchesneau, Les modèles du vivant de Descartes à Leibniz, J. Vrin, 1998.
・Justin E. H. Smith, Divine Machines, Princeton University Press, 2011.
- 森幸也氏(山梨学院大学教授)「バロック音楽と近代科学の成立期における両分野の照応」
- 日時:2017年10月28日(土) 午後3:00〜5:00
- 場所:東京大学駒場キャンパス14号館3階308号室(※京王井の頭線「駒場東大前」駅下車、渋谷寄り改札を出て正面手前に構内案内板があります。)http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam02_01_13_j.html
- [発表概要]
比較文化史の一領域として、音楽史と科学史を比較する試みがあります。その一環として、発表者(森)は、ふたつの歴史の大局的変遷の並行性に着目して研究を行ってきました。今回の発表では、17世紀前半に成立した、バロック音楽と近代科学の間にみられる照応関係を紹介します。
まず、数学と実験が、近代科学の確立のみならず、バロック音楽の誕生にも深い関わりがあったことを指摘します。
続いて、音楽と天文学が古代より緊密な関係があったことを確認したのち、ふたつの分野で1600年前後に起こった注目すべき出来事、「平均律の構想」と「楕円軌道論」の出現には、密接な関連があることを示します。
どちらも、「ギリシア由来の調和の理念」に替わる、新たな「数学的秩序」の導入、と捉えられます。これは、音楽史と科学史の間にみられる並行性の代表例といえるでしょう。
- [参考文献]
西原稔・安生健『アインシュタインとヴァイオリン―音楽の中の科学―』(ヤマハミュージックメディア、2014年)
J.ジェイムズ、黒川孝文訳『天球の音楽−歴史の中の科学・音楽・神秘思想−』(白揚社、1998年)
T.レヴェンソン、中島伸子訳『錬金術とストラディヴァリ―歴史のなかの科学と音楽装置―』(白揚社、2004年)
P. Pesic, Music and the Making of Modern Science (London: The MIT Press, 2014)
アリストクセノス/プトレマイオス、山本建郎訳『古代音楽論集』(京都大学学術出版会、2008年)
Vincenzo Galilei, trans. by Claude V. Palisca, Dialogue on Ancient and Modern Music (New Haven, 2003)
藤枝守『響きの考古学―音律の世界史―』(音楽の友社、1998年)
E. J. Dijksterhuis, Simon Stevin, Science in the Netherlands around 1600 (Hague, 1970)
プトレマイオス、薮内清訳『アルマゲスト』(恒星社、1993年)
ヨハネス・ケプラー、岸本良彦訳『新天文学』(工作舎、2013年)
- [付録]
最近公開した自作曲です。興味ある方は、ご試聴ください。
YouTube:森さちや作曲・管弦楽作品〈時の波〉