2018年 生物学史研究会
- 齊藤万丈氏(東京大学大学院総合文化研究科博士課程)「ミルン=エドワールとダーウィンの比較思想 ―生理的分業説と自然分類の原理の関連づけに着目して―」
- コメンテーター:林真理氏(工学院大学)
- 日時:2018年2月10日(土) 15:00〜17:00
- 場所:東京大学駒場キャンパス14号館3階308号室(※京王井の頭線「駒場東大前」駅下車、渋谷寄り改札を出て正面手前に構内案内板があります。)http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam02_01_13_j.html
- [発表概要]
進化は枝分かれ状におこるとするダーウィンの「分岐の原理」の成立には、動物学者ミルン=エドワール(1800−1885)が唱えた「生理的分業説」と「自然分類の原理」という二つの学説が影響していることが指摘されている。しかし従来の研究では、生理的分業説と自然分類の原理は別個の学説であり、したがってダーウィンもそれらを別個の学説として受容したと考えられてきた。
本報告では、ミルン=エドワールにおいてもダーウィンにおいても生理的分業説と自然分類の原理は発生学をとおして関連づけられていると考えられることを指摘したうえで、この点について両者のあいだに影響関係があるのかを議論し、またこれらの学説の関連づけが分岐の原理の成立に対してもつ含意を検討する。
- [参考文献]
(1) Milne-Edwards, Henri. “Considérations sur quelques principes relatifs à la classification naturelle des animaux.” Annales des Sciences Naturelles, 3rd ser.,1: 1844. 65-99. (in Biodiversity Heritage Library)
(2) Milne-Edwards, Introduction à la zoologie générale. Chez Victor Masson. 1852. Chap1. (in Biodiversity Heritage Library)
(3) Darwin, Charles. On the Origin of Species. John Murray. 1859.
(4) Darwin, Charles. Darwin’s Natural Selection: Being the Second Part of His Big Species Book Written from 1856 to 1858. Ed. Robert C. Stauffer. Cambridge University Press. 1975.
(5) Limoges, Camille. “Darwin, Milne-Edwards, et la Principle de Divergence.” Actes du XIIe Congrès International d'Histoire des Sciences,8: 1968. 111-116.
(6) Ospovat, Dov. The Development of Darwin’s Theory: Natural History, Natural Theology, and Natural Selection, 1838-1859. Cambridge University Press. 1981.
(7) Richards, Robert J. The Meaning of Evolution: The Morphological Construction and Ideological Reconstruction of Darwin’s Theory. University of Chicago Press. 1992.
(8) 齊藤万丈「ダーウィンにおける圧縮と異時性」『生物学史研究』No.94. 2016. 19-30.
- 坂野徹氏(日本大学)「緑の牢獄あるいはユートピア−パラオ熱帯生物研究所の若き学徒たち」
- 日時:2018年3月24日(土) 15:00〜17:30
- 場所:東京大学駒場キャンパス14号館3階308号室(※京王井の頭線「駒場東大前」駅下車、渋谷寄り改札を出て正面手前に構内案内板があります。)http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam02_01_13_j.html
- [発表概要]
パラオ熱帯生物研究所(1934ー1943)は、戦前、日本の統治下にあったパラオ・コロール島に日本学術振興会により創設された小さな研究所である。研究所では、交替で若手研究員を現地に派遣し、珊瑚礁を中心とする熱帯生物の研究を進めたが、アジア・太平洋戦争開戦とともに閉鎖されたため、その活動期間は十年にも満たない。だが、パラオ研は当時、世界トップクラスの研究水準を誇り、世界的なサンゴ研究者として知られる川口四郎をはじめ、日本における発光生物学の先駆者・羽根田弥太、異才の動物行動学者・阿部襄など、多くの俊才を輩出した。本発表では、歴史に埋もれた他の研究員や研究所を取り巻く人びとも含め、パラオ熱帯生物研究所の活動実態と、研究員たちのその後について検討したい。
- [参考文献]
坂野徹「珊瑚礁・旅・島民−パラオ熱帯生物研究所研究員の「南洋」経験」同編『帝国を調べる−植民地フィールドワークの科学史』勁草書房、2016年
荒俣宏『大東亜科学綺譚』筑摩書店、1991年
大森信「パラオ熱帯生物研究所」中森亨編『日本におけるサンゴ礁研究I』日本サンゴ礁学会、2002年
佐藤崇範「『パラオ熱帯生物研究所日誌』の概要と今後の利活用について」『みどりいし』28号、2017年
清水久夫『土方久功正伝−日本のゴーギャンと呼ばれた男』東宣出版、2017年
- 長戸光氏(東京大学大学院教育学研究科)「オーギュスト・コントにおける生理学と社会学の接合」
- コメンテーター:小松美彦氏(東京大学大学院人文社会系研究科教授)
- 日時:2018年6月16日(土) 15:00〜18:00
- 場所:東京大学駒場キャンパス14号館3階308号室(※京王井の頭線「駒場東大前」駅下車、渋谷寄り改札を出て正面手前に構内案内板があります。)http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam02_01_13_j.html
- [発表梗概]
オーギュスト・コント(1798-1857)は現在の日本では社会学の祖という位置づけが為され、社会学史の前史に位置づけて語られることが多い。しかし、全6巻に渡る『実証哲学講義』という浩瀚な書は、社会学という学問の創始の宣言であるとともに、数学、天文学、物理学、化学、生理学(生物学)についての膨大な科学史の記述を含んでいることはあまり知られていない。
ところで、科学史家としてのコントに注目すると、コントが当時の生理学を非常に深く学習し、独自の生命哲学を築けあげたことに気づく。特に、「生物学(Biologie)」や「環境(milieu)」概念の創出が際立っており、実際、当時のフランスの生理学の多産な研究成果は、コントの影響を強く受けていた。
こうしたことを踏まえ、本報告では、コントにおける生理学の特色を分析したうえで、生理学と社会学とが一体どのような関係として把握されているのか、そしてそれがどのような意義を持つのかを明らかにする。というのも、コントは生理学を社会学への最も直接的な「贈与」として認識しているからである。本報告では、社会を「有機体」として捉えることを巡る非常に難解な論点を剔抉することになろう。
- [参考文献]
クロード・ベルナール『実験医学序説』三浦岱栄訳、岩波書店、1970年 。
カンギレム, G『科学史・科学哲学研究』金森修監訳、法政大学出版局、1991年。
カンギレム, G『生命の認識』杉山吉弘訳、法政大学出版局、2002年。
コント, A「社会再組織に必要な科学的作業のプラン」清水幾太郎編『世界の名著』第46巻、中央公論、1980年、47-139頁 。
Comte, A., Cours de philosophie positive; tome III, Paris: Bachelier, 1838.
金森修『科学的思考の考古学』人文書院、2004年。
清水幾太郎『オーギュスト・コント』ちくま学芸文庫、2014年。
- 西貝怜氏(白百合女子大学 言語・文学研究センター研究員)「住野よる『君の膵臓をたべたい』論――末期患者との死別をめぐる死生学的問題への文学研究からのアプローチ――」
- コメンテーター:橋博史氏(白百合女子大学文学部国語国文学科教授)
- 日時:2018年8月11日(土) 15:00〜
- 場所:東京大学駒場キャンパス14号館3階308号室(※京王井の頭線「駒場東大前」駅下車、渋谷寄り改札を出て正面手前に構内案内板があります。)http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam02_01_13_j.html
- [発表梗概]
死生学は学際的に死を問う学問分野である。ただ、日本においては1992年に山本俊一が『死生学のすすめ』で述べているように、宗教学と医学という視点からの研究が多くなされてきた。そしてそれは現在でも同様である。たとえば後者の問題に即して死別の悲しみについての研究も様々な分野からなされているが(平山(2008)など)、文学研究の寄与はこれまでに少ない。末期患者の恋人との死別は、たびたび日本文学でも描かれるテーマである。藤井淑禎『純愛の精神誌――昭和三十年代の青春を読む』が特殊な状況下での恋愛と指摘したその純愛ものの物語構造は、純愛ブームに代表されるように現代でも多く見られる。そんな中、住野よる『君の膵臓をたべたい』は、末期患者が殺されてしまい、残された者のこれからを描いている点で特異であり興味深い。そこで本発表では、死別の死生学研究に目を向けつつ、文学研究からこの作品を検討する。そのために来場者の方々には、この作品を一読した上で参加されることを望む。
- [参考文献]
住野よる『君の膵臓をたべたい』双葉社(単行本は2015年、文庫版は2017年。どちらでも可)
平山正実編著『死別の悲しみに寄り添う』聖学院大学出版会、2008年。
藤井淑禎『純愛の精神誌――昭和三十年代の青春を読む』新潮社、1994年。
山本俊一『死生学のすすめ』医学書院、1992年。