2021年 生物学史研究会
- 奈須野文槻氏(東京大学大学院総合文化研究科修士課程)「20世紀日本における医療情報の技術史・制度史―比較歴史制度分析の科学技術社会論への導入を検討する―」
- 日時:2021年3月13日(土) 15:00〜17:00
- 開催方法:Zoom上でのオンライン開催になります。
以下のフォームから事前に参加登録をしていただいた方に、ZoomのミーティングURLをメールでお知らせいたします。
参加登録フォーム:https://forms.gle/c74dfWgBb7JMwfh8A
- [発表概要]
しばしば日本の医療情報の歴史は、「不幸な歴史である」と医療情報学・医療情報システムの当事者等から評価されてきた。1970年代以降、コンピュータは日本の病院に医療事務や診療報酬の会計、CTのために急速に普及した。しかしながら、その後はネットワーク化における共通標準制度の整備の遅れや過去のセキュリティ・プライバシー保護上の懸念に由来する老朽化した技術基盤と運用制度などが、共通電子カルテシステムや公衆衛生情報システム等の医療情報システムの普及や発展にとって課題となっていると言われてきた。
本発表は一般にそう評価される日本の医療情報の歴史を再検討するものである。検討にあたり、猪飼による20世紀日本の医療制度史を説明する比較制度論である「病院の世紀の理論」を足がかりに、青木やグライフらによって提案された経済史の方法論である比較歴史制度分析の手法を用いる。単線的な技術史観や制度の認識をあらため、技術と制度の相互作用を通じて医療情報システムの多様な発展の形態と現在までに通じる制度的課題を説明することを狙う。
- [参考文献]
山本隆一「国内外における医療情報の標準化の現状と展望 相互運用性の向上を目指して」『情報管理』第60巻、619-628頁、2017年。
中村努『医療情報システムと情報化 情報技術の受容過程に着目して』ナカニシヤ出版、2019年。
猪飼周平『病院の世紀の理論』有斐閣、2010年。
青木昌彦『比較制度分析に向けて 新装版』瀧澤弘和・谷口和弘訳、NTT出版、2003年。
- 内田賢太郎氏(慶応義塾大学非常勤講師/ドイツ文学)「メエルシュトレエムは回り続ける――ポオの「メエルシュトレエム」をユンガーとその同時代人はいかにして受容したか」
- 日時:2021年3月27日(土) 15:00〜17:30
- 開催方法:Zoom上でのオンライン開催
前日3月26日(金)までに以下のフォームから事前に参加登録をお願いいたします。登録くださった方には、配布資料を当日正午までにメール添付にてお送りいたします(事前登録は必須ではありませんが、資料の配布は登録いただいた方のみとします)。
参加登録フォーム https://forms.gle/wCWLWtRx8oyo4vAUA
当日のZoomミーティングURLは以下です。14:45頃からアクセス可能です。
https://zoom.us/j/93995402659?pwd=TmYzbVpnRTI5a3hIKy81U1cwdUxvZz09
ミーティングID: 939 9540 2659 パスコード: 557147
※Zoomのご利用が初めての方は、事前に接続テストができます。https://zoom.us/test
- [発表概要]
本発表ではE.ユンガーの思索日記的作品『冒険心 第一稿』(1929)における渦モティーフを扱います。『冒険心』 は多岐にわたるさまざまなテーマがモザイク状にちりばめられながらも、その中心はユンガー独自の知覚論「立体的知覚」にあるとされています。生の哲学の強い影響下で、「始源的なもの」にして「根源的な生」をいかに見定めるのかを説くこの知覚の重要性を最初に指摘したのは、K.H.ボーラーです。ボーラーは『驚愕の美学』の中で、知覚と驚愕がいかに密に結びついているかを、ユンガーの落下モティーフをE.A.ポオの「メエルシュトレエムに呑まれて」の渦と比較・分析することで解き明かします。発表の前半では、まずこの研究史上定説となりつつあるボーラーの解釈を検討します。すなわち、ボーラーがポオの渦モティーフ受容をユンガーにみとめつつも、最終的にはポオの落下モティーフから読み解いたのに対し、徹底的に渦のイメージから読むことを試みます。後半はユンガーの同時代人にみられるメエルシュトレエム受容を扱います。『冒険心』執筆時期、「悪の作家」として語られがちだったポオを、ユンガーは「渦の作家」として見ています。ユンガー同様に、ポオの渦の影響下で、自身の渦モティーフを展開した同時代人として、H.v.ホーフマンスタールとT.アドルノを取り上げます。彼らの渦とユンガーの渦の近さと遠さを確かめることで、渦と根源的な生の関係、またそれを見定める知覚論を更に検討してゆきます。
- [参考文献]
E.ユンガー『冒険心 第一稿』(1929)[Ernst Jünger: Das abenteuerliche Herz. Erste Fassung. Aufzeichnungen bei Tag und Nacht. Sämtliche Werke in 18 Bänden. Bd.7.Stuttgart 1979]
K.H.ボーラー『驚愕の美学』(1978)[Karl Heinz Bohrer: Die Ästhetik des Schreckens. Die pessimistische Romantik und Ernst Jüngers Frühwerk. München/ Wien 1978]
内田賢太郎「メエルシュトレエムの視えるとき」(『研究年報』[慶應義塾大学独文学研究室]36号、2019
- 村瀬泰菜氏(東京大学大学院総合文化研究科修士課程)「チェコをめぐる『国境を越えたリプロダクティブ・ケア』――現状の把握と法制度の比較」
- コメンテーター:柳原良江氏(東京電機大学理工学部共通教育群准教授)
- 日時:2021年6月5日(土) 15:00〜17:00
- 開催方法:Zoomでのオンライン開催です。
参加を希望される方は事前に以下のフォームから参加登録をお願いいたします。ミーティングURLは参加登録をしていただいた方にメールでお知らせいたします。
参加登録フォーム:https://forms.gle/DGaWNZsm1EFmUwY7A
- [発表概要]
昨年末、日本でもついに「生殖補助医療法」が成立したが、生殖医療の利用は今や一国内で完結するものではない。自国で利用困難な生殖医療を受けるために国外へと赴く現象は「国境を越えたリプロダクティブ・ケア(cross-border reproductive care; CBRC)」と呼ばれ、体外受精や卵子提供、代理出産、着床前診断等を目的として多くの不妊患者が国境を越える。従来CBRCの目的地は北米やアジアが中心だったが、近年では新たに中東欧諸国が台頭してきている。
中でもCBRCの主要な目的地となっているのが、チェコ共和国である。チェコでは近隣諸国で規制されている卵子提供を伴う体外受精や着床前診断のほか、法規制がないままグレーゾーンで代理出産が行われている。またその裏では、昨年人工妊娠中絶の違憲判決が下された隣国のポーランドから中絶のためにチェコを訪れる人も後を絶たない。つまり、チェコは近隣諸国にとってリプロダクションのアジールになっていると言える。
本発表ではそうしたチェコを中心として展開されるCBRCの現状を検討する。チェコの不妊治療クリニックで利用可能な生殖医療、利用者の出身国、関連する法制度、CBRCに付随する問題について考察する。その際CBRCの動機となる国家間の法制度の差異を具体的に描出するため、近隣諸国間での法制度の比較を試みる。
- [参考文献]
日比野由里(2015)『ルポ 生殖ビジネス 世界で「出産」はどう商品化されているか』朝日新聞出版
柳原良江(2019)「代理出産というビジネス――経緯・現状とそれを支える文化構造」『科学技術社会論研究』17: 79-92.
Shenfield, F., Mouzon, de J., Pennings, G., Ferraretti, P. A., Andersen, N. A., Wert, de G., & Goossens, V. (2010) “Cross border reproductive care in six European countries,” Human Reproduction, 25(6): 1361-1368.
Sills, E. Scott ed. (2016) Handbook of Gestational Surrogacy: International Clinical Practice and Policy Issues. Cambridge: Cambridge University Press.
Speier, Amy. (2016) Fertility Holidays: IVF Tourism and the Reproduction of Whiteness. New York: New York University Press.
- 美馬達哉氏(立命館大学先端総合学術研究科)「クリスパー(CRISPR)哲学とラマルクの危険な思想」
- コメンテーター:瀬戸口明久氏(京都大学人文科学研究所)
- 日時:2021年12月12日(日) 15:00〜17:30
- 開催方法:Zoomでのオンライン開催です。
参加登録フォーム:https://docs.google.com/forms/d/1RSiE60kBnUaHBvew3fIWvzWKOcN1uSdHOUBg1PxntNE/
- ZoomミーティングのURLは以下です。10分前頃よりアクセス可能です。
https://ritsumei-ac-jp.zoom.us/j/92615750647?pwd=NG1MY2l6VStjeFpDKzgwN3dKWWNQQT09
ミーティングID: 926 1575 0647
パスコード: 563099
Zoomの事前接続テストも可能です。
https://zoom.us/test
- [発表概要]
本発表は、『現代思想』2021年10月号に掲載された「クリスパー(CRISPR)哲学とラマルクの危険な思想」をもとにするものです。ここでは、CRISPRのゲノム編集ツールや生命倫理的な問題ではなく、それが有している哲学的意義を、ユージーン・V・クーニン(Eugene V. Koonin)の議論から、考察することを目的とします。クーニンは現代ラマルキズムとして、遺伝子の水平伝播を通じた「獲得形質の遺伝」に着目し、ゲノム変化を3つの要素の定義にまとめ、CRISPRを「真性ラマルキズム」と表現しました。クーニンのラマルキズム論を他の議論と比較しながら捉え、CRISPR-Casと優生学の間の連続性について検討していきます。
- [参考文献]
石井哲也『ゲノム編集を問う―作物か らヒトまで』岩波新書,2017年
Eugene V. Koonin ”CRISPR: a new principle of genome engineering linked to conceptual shifts in evolutionary biology”, Biology & Philosophy 34: 9(2019)
Eugene V. Koonin ”Lamarckian or not, CRISPR-Cas is an elaborate engine of directed evolution”, Biology & Philosophy 34:17(2019)
- 問い合わせ先:mikikwbt@gmail.com(生物学史分科会研究会・川端)