2023年 生物学史研究会
- 片岡雅知氏(広島大学大学院 人間社会科学研究科 研究員)「C. A. メイスにおける良心の問題――広島大学図書館「メイス教授旧蔵 哲学・心理学コレクション」の調査から」
- 日時:2023年2月4日(土) 15:00〜17:00
- 開催方法:Zoom上でのオンライン開催です。
参加を希望される方は以下のフォームから参加登録をお願いいたします。ミーティングURLは参加登録をしていただいた方にメールでお知らせいたします。
参加登録フォーム:https://forms.gle/P2W24RgCJavX7uCQ9
- [発表概要]
セシル・アレック・メイス(Cecil Alec Mace: 1894?1971)は20世紀中盤に英国で活動した心理学者・哲学者である。心理学者としては、自ら心理学実験室を設立して報酬と行動の関係を研究するなど、英国心理学の実験化に貢献した。他方で哲学者としては、ケンブリッジ大学でG. E. ムーアに学び、雑誌『Analysis』の創刊に携わるなど、初期の分析哲学運動を牽引した。両分野での活動は同時代的には確かに評価され、メイスは英国心理学会とアリストテレス協会の両方で会長を務めている。しかし現在、その生涯と業績は、心理学史上でも哲学史上でも忘れられている。
ところで、広島大学図書館には「メイス教授旧蔵 哲学・心理学コレクション」が存在している。このコレクションは、メイスの旧蔵書を中心に、未公刊の原稿や手紙なども収蔵しており、既知の書誌的、伝記的情報を大きく補うものになっている。発表者は本コレクションの調査を半年ほど断続的に行っており、本発表はその最初の報告である。
今回特に注目したいのが、残された未公刊原稿のうち最も古いと思われる手稿「良心の問題」である。これはまだ学生だった1916年のメイスが、ケンブリッジ大学のモラルサイエンスクラブで読みあげたものと目される。その内容は良心という心理現象を理論的に分析するものだが、それは同時に極めて時局的な意味合いを帯びてもいた。1916年の英国では第一次世界大戦に伴って徴兵制が導入され、それに対して良心的兵役拒否の運動が盛りあがっていたからだ。メイス自身、このあとすぐに良心的兵役拒否の角で投獄され、その経験は、収監が心理に与える影響について論じた最初の著作につながっていく。本発表はこうした経緯を追跡することで、心理学者・哲学者として本格的にデビューする以前の、これまで知られていなかった若きメイスの活動と思想を明らかにしたい。
- [参考文献]
Carson, P. P., Carson, K. D., and Heady, R. B. (1994). Cecil Alec Mace: the man who discovered goal-setting. International Journal of Public Administration, 17(9), 1679-1708. https://doi.org/10.1080/01900699408524960
J.-C. (1916, May 13). Conscience: is there such a thing? Cambridge Magazine, 5(20), 451?452. Available at https://books.google.co.jp/books?id=v7JCAQAAMAAJ&pg=PA451
小関隆 (2010). 『徴兵制と良心的兵役拒否: イギリスの第一次世界大戦経験』, 人文書院