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研究内容の紹介

2007年3月7日(水)から9日(金)の3日間、東京大学本郷キャンパスで第2回日本LCA学会研究発表会が開催されました。8日は、LCAの視点に基づく農水産業・食品に関する14件の研究発表が日本LCA学会食品研究会特別セッションとして企画され、この分野におけるLCA研究の重要性が集中的に討議されました。以下の研究内容の紹介は、その中の一つ「日本LCA学会食品研究会の紹介」(小澤寿輔、稲葉敦、演要旨集 A2-01)からの抜粋です。

1. 背景と目的

食品研究会の目的は、@食に関するライフサイクル全体の環境影響評価の実施、および、A食の持続可能性を表現する指標の開発である。本稿は、平成17-18年度における食品研究会の成果の概要、とくに@の部分を紹介することを目的とする。個々の研究成果については、研究会会員による報告を参照されたい。

2. 方法

食品研究会は月に一度開催し、会員が上述の2つの目的に応じた調査・研究の結果を発表する形で実施してきた。以下にその概要を述べる。

2.1. 献立の設定

日本の食生活によって誘発される環境負荷の実態を調べるために、5つのモデルメニューを設定した(表1)。メニューの作成にはMRSメニューセンサス調査のメニュー出現頻度1)と厚生労働省「食事バランスガイド」2)の主食・主菜、副菜、汁物での形態を参考にして、家庭において出現頻度が高いメニューで、調理形態(手作り、外食、加工食品)が揃っていること、調理法を網羅していることなどを条件に設定した。また、各食材の分量は、平成15年国民健康・栄養調査報告書3)の身体活動レベルふつう(U)の30歳から49歳までの女性を対象とした分量を想定した。また、今回設定したメニューは手作りで調理することを前提に組み立てたが、加工食品利用の場合や外食の場合との比較が容易にできるような品目を選択した。

表1 本研究で設定した献立メニュー4)

2.2. 食品・献立に関するLCI分析

次に、各種食材のCO2排出量とそれを用いたモデルメニューの食事全体のCO2排出量を家庭で手作りをした場合を想定して推算した。まず、調理するための食材(4人分)と調味料の量を調べ、a)食材が家庭に届くまでのCO2排出量と、b)調理に必要とされるエネルギー起因のCO2排出量を調査した。a)について、原料素材のインベントリーデータは1995年版産業連関表5)と3EID6)より原料素材の重量基準のCO2発生量ベースを作成して(味の素グループ版CO2排出係数データベース7))推算に用いた。その結果、CO2排出量が比較的大きな食材についてはさらに文献調査と聞き取り調査を実施し、積み上げ法によってCO2排出量を算出した。この際、海外から輸入している食材については海外生産と我が国までの輸送に関わるCO2排出量も算定した。今までに積み上げ法を適用した農産物および食品の製造までのCO2排出量を表2と表3に示す。b)については、実験室で調理を実際に行い調理に係わるエネルギー消費量(電気、都市ガス)を実測し、それらにCO2排出係数8)をかけてCO2排出量を算定した。献立メニューごとの、素材起因および調理エネルギー起因のCO2排出量を表4に示す。

表2 農産物のCO2排出量(g-CO2/kg-農産物)4)


表3 食品のCO2排出量(g-CO2/kg-食品)と割合(%)4)


表4 献立メニューごとのLC-CO2算出結果4)
 

2.3. 食の持続可能性を表現する指標の開発に向けた食の価値の定量化手法の提案

現状の食糧生産・消費を持続的な形態に変革させるためには、環境負荷の削減のみに着目するのではなく、食品の機能あるいは価値(健康性、利便性、満足性など食生活の質を向上させる要素)も考慮する必要がある。そこで、食の持続可能な消費を示す指標のひとつとして環境効率指標を開発し議論した。また、食の「価値」の定義、決定基準と定量法について議論した。その際、「食の価値」となりうる表現方法として、摂取栄養価値、および食品群充足度を評価基準とした定量法を提案した。本研究については、田原・小澤の報告を参照されたい。

3. 結果と考察

食材1kgあたりのCO2排出量を比較すると、蛋白源となる食材(肉、乳製品、魚類)は一般にCO2排出量が大きいことがわかった。また、米飯・パン等のカロリー源が蛋白源に次いで大きなCO2排出量割合を示した。その中で、研究会で積み上げ法で算出した国産牛肉のCO2排出量は、産業連関表分析による値より3倍以上大きい。海外生産牛肉を含め更にデータを精査する必要があると思われる。
調理で発生するCO2は、夕食で比較すると和食(約600g-CO2)、洋食(約400g-CO2)、中華(約300g-CO2)の順で小さくなった。茹でる・煮る・蒸す等の調理は、炒める・揚げる等の調理に比べ、調理時間が長くCO2排出量が大きい傾向があった。和食はCO2排出が大きな調理法が比較的多く、その調理の熱効率を向上させるという課題があると考えられる。また、素材と調理を合わせた献立全体のCO2排出量を見ると、朝食は最もLC-CO2が少なく、約1,000g-CO2で、昼食のラーメンは、倍の約2,000g-CO2であった。夕食は、和食、中華がほぼ同等の約3,000g-CO2であった。和食は、材料のLC-CO2は少ないが調理のCO2排出量が多く、合計で同等になったと考えられる。一方、洋食のモデルとして設定した牛肉のハンバーグでは、牛肉のLC-CO2が極めて高いため和食、中華の約倍程度のLC-CO2となった。

4. 今後の展開

食の持続可能性を考察するためには、LCA手法を用いて現状の環境負荷物質の排出量を把握することがまず必要であろう。次に、環境影響を小さくするために、我々が何をすべきかライフスタイルの変更を考える方向と、世界全体の生産量と人口変化等マクロな視点から持続可能性を検討する2つのアプローチがあるように思われる。
今後、これまでの研究成果をもとに、様々な場面で食の持続可能性を追求するための新たな指標を提案することを目指す。また、環境負荷の算定には、食品残渣の処理方法や、内食・中食・外食の比較、加工食品のCO2排出量など、食生活を考える上での話題を議論する基礎となるデータの収集・提供を目指す。

6. 参考文献

1) MRSメニューセンサス調査:メニュー出現頻度過去3回分(1999, 2001, 2003年)の平均値により算出
2) 厚生労働省「食事バランスガイド」ウエブサイト(http://j-balanceguide.com/)
3) 平成15年国民健康・栄養調査報告 厚生労働省 平成17年8月発行
4) 日本LCA学会食品研究会「食品のLCAと持続可能な消費に向けた指標開発:平成17年度報告書」並びに「同講演会資料集」、5月17日(2006)
5) 平成7年 産業連関表 総務省 1999年発行
6) 産業連関表による環境負荷原単位データブック(3EID)(独)国立環境研究所、2002年発行
7) 味の素グループ版CO2排出係数データベース、味の素梶@2006年発行(www.ajinomoto.co.jp/ company/kankyo/pdf/2007/lcco2.pdf
8) 環境省 事業者からの温室効果ガス排出量算定方法ガイドライン(試案ver.1.5)

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Last Updated: 30-05-2007