3-3.環境学習授業を組み込んだ省エネ活動プログラムの実施と分析

品川区内の台場小学校に対し、省エネ行動の提案・実践を環境学習授業に取り込むことで、校舎の実質的な省エネルギーに加えて教職員・児童の環境意識向上にも寄与するような環境教育プログラムを作成し、実践を行った。
主なプログラムの流れは以下のようになる。
@ エネルギー消費量の実測・分析調査(Research)
A 調査結果の共有レクチャー(Share)
B 省エネ行動提案(Propose)
C 省エネ行動実践(Practice)
D 効果検証/効果分析(Inspect/Analyse)
E 検証結果報告(Report)
F 省エネ行動の継続検討(Examine)

台場小学校において、図5.1-2に示すようなフローで省エネ活動プログラムを実践した。
大学側から小学校側へのレクチャー・授業は計3回であり、1回目は教職員向けで、2回目・3回目は5年生の児童向けに実施した。時期としては夏期の省エネ行動実践を狙い、夏休みを挟んで実施している。

2008年〜2009年に計測したデータ分析結果を用いて、台場小学校の教職員に対して6月にエネルギー消費量の現状及び省エネルギー対策についてのレクチャーを実施し、現状確認と省エネ意識の共有を図った。さらに5年生の児童と担任教員の協力を得て、環境学習授業を7月・10月と2回実施した。
■教職員向けレクチャー
台場小学校とその他の区内の小学校との比較分析結果と台場小学校での消費の現状を全体規模から説明を行い、各教室等へと詳細な分析を行った結果を報告し、最後に分析結果を参考に立案をした省エネ行動提案の検討を兼ねて解説を行った。使用した資料は資料編を参照のこと。


■第1回環境学習授業
台場小学校の省エネを行うにあたって、児童の協力も必要不可欠である。そこで第1回の授業では、省エネをする前段階として、今現在世界で問題とされている「地球温暖化」をテーマに授業を行い、その後に「省エネ」とは何かについて解説した。
授業の中では手回し発電機の体験も行い、電気を起こす大変さについても実感を交えた説明を行った。また最後に、今後の省エネ行動実践に向けて児童たちによる省エネ標語の作成とポスター掲示を呼び掛けた。使用した資料は資料編を参照のこと。


■省エネ行動の実践
(1)省エネ標語の作成
・CO2 増えるとすすむ 温暖化 ・あついとき うちわであおごう すずしいよ
・寒いへや 1,2℃上げても いいんじゃない ・屋上に 緑をふやそう ムダへらそう
・消し忘れ 電気エアコン パソコンも ・屋上へ 行く階段は 電気むだ
・紙大事 宿題へらせ 0枚に ・エコしよう みんなの未来 大切に
・ISO きれいな地球 いつまでも ・東京も いつかしずむ 海の中 みんなでふせごう CO2
・そのぼたん おしたときから エコになる ・カーテンは 冷房のとき しめようね
・まどを開け 自然の空気 楽しもう ・パソコンに 一人働き させないで
・減らせるよ スイッチ一つで CO2 ・朝顔で 緑のカーテン 作ろうよ
・あつい日は うちわをあおぎ 涼しもう ・冷房はお金がかかる無駄づかい
第1回環境学習にて児童たちから出た省エネ行動提案をまとめると、おおよそ以下のような項目となった。
・照明をこまめに消す
・使ってない部屋の照明を消す
・使わないコンセントは抜いておく
・冷房の温度を1〜2℃上げる
・冷房の使用時間を短くする
・冷房の使用をおさえて窓を開けて風を通す
(2)省エネ標語ポスターの掲示
児童に作成してもらった省エネ標語をポスターとして台場小学校の各教室や廊下等に掲示してもらった。職員室や印刷室等にもポスターを掲示してもらうことで、児童だけではなく教職員への啓発効果も狙った。

 
 
■第2回環境学習授業
第2回では、2か月半にわたって実施した省エネの内容、省エネ行動結果の報告を行った。
結果発表のあとには、第1回で作成してもらった省エネ標語の大賞の表彰式を行った。そして最後には、第1回・第2回をはじめとする今回の省エネ活動に関するアンケートを行った。使用した資料は資料編を参照のこと。
 

省エネ提案を基に夏期授業期間より省エネ実践を行った。今回は、空調(ガス)・照明/コンセント(電力)の省エネを主に実施した。
さらに、教職員・児童に向けてのアンケート調査も同時に行った。
■省エネ効果分析
ガス・電力・室温を期間別・時刻別に分析を行い、今回の省エネ実践の効果分析を行った。
(1) ガス消費量
a.期間別ガス消費量
外気温の違いのため7,8月共に前年から消費量は増加していた。

b.時刻別ガス消費量
代表日における時刻別のガス消費量を示す。
期間別のガス消費量より夏期授業期間・夏休み期間での大幅な増加が見られたので平日・休日の分析を行う。
@夏期授業期間(平日/7月16日)
空調の使用開始時刻は変わらずの7時からであるが、消費量が1.5〜2倍近くの消費となっている。児童の登校時刻である8時、正午に近づくにつれて増加している。夕方以降の使用に関しては、変わりはないが、午前・日中とは違い消費量があまり増加していないことがわかる。

A夏期授業期間(休日/9月4日)
平日とは違い使用箇所が限られている休日は、消費量は平日と比べて少ないが、夜遅くまでの使用が見られる。朝9時に一時減少しているが、それ以降の夜20時まで使用が大きく目立っている。

B夏休み期間(平日/7月30日)
主に職員室、学童保育室、事務室が使用されている夏休みは、16時頃に大きく消費されてはいるが、その他の時刻をみると昨年度の夏休み期間よりも消費が少ないということがわかる。消費量が多くなる原因としては、16時頃の増加と夜遅くまで使用されていることが挙げられる。

C夏休み期間(休日/8月21日)
午前中の消費はあまりなく、学童保育と職員室くらいの使用ではないかと考えられる。平日と同様に15時、16時頃の大幅な上昇が消費量増加に寄与している。

(2) 電力消費量
今回、教職員向けレクチャーを実施した6月〜第2回環境学習授業を行う前の9月の電力消費量の分析を行う。
図5.3-6に期間別照明・コンセント消費量、図5.3-7〜図5.3-9に時刻別照明・コンセント消費量を示す。
c.期間別照明・コンセント消費量
レクチャー実施後から省エネを実施されていたことから6月の消費が減少している。環境学習授業、省エネ行動提案を実施した7月に関しては、大きな成果が出ている。しかし、8月では夏休み中のすまいるスクールの消費が増加したことにより8月は昨年度と比べて増加する結果となった。夏休みが明けた9月でも7月と同様の効果が見られた。

d.時刻別照明・コンセント消費量
@中間期授業期間(6月4日)
省エネ実践前であるため去年と同様の使用がされていて、夜の消費が目立つ。さらには3Fの消費が多くなっている。

A夏期授業期間(7月9日)
夏休み前に比べて、管理諸室が大幅に削減されている。さらには夕方18時頃から少しずつ減少しているので、昨年度の問題点である夜の使用が改善されたと言える。21時頃の増加に見られる体育館の使用については今後の検討課題といえる。

B夏休み期間(7月30日)
昨年度より使用箇所が増えていることが8月の消費量増加の原因だと思われる。夜の消費が大きいことから貸し出し等で使用されたものと考えられる。ここでも管理諸室の減少が見られるので、教職員の省エネ行動効果が見られる。

(3) 室内温度
夏期授業期間・夏休み期間の各室の室内温度を示す。
@夏期授業期間(管理諸室・普通教室/7月16日)
今年の夏は、猛暑日が続いたため空調の消費が多かった。しかし、室内温度を見てみると、職員室の温度が27℃と昨年度より1℃上がっていることから省エネ行動の一つである「冷房の温度設定を1℃あげる」を実行した結果が見えている。さらに、普通教室でも同様の効果が見られた。その他の部屋では26℃と維持されているが外気温度が高いことからできる限りの設定温度で、省エネを行ったものかと思われる。


A夏期授業期間(オープンスペース・特別教室/7月16日)
昨年度はオープンスペースは一定を保っていたが、今年度は2Fが24℃と涼しくなっている。他をみても設定温度はあまり変わっていないことから外気温が高いことを考慮すると省エネがされていると考えられる。
特別教室では、図工室・音楽室・家庭科室は28℃と昨年より1℃高いが、メディアセンター・理科室は、25℃と1℃下がってしまった。


B夏休み期間(管理諸室・普通教室/8月10日)
夏期授業期間と同様に職員室の設定温度が1℃高いことがわかる。すまいるスクールでは、児童が多いことからか、26℃を行き来していることがわかる。
普通教室は、使用されていないので外気温に近い温度である。


C夏休み期間(オープンスペース・特別教室/8月10日)
夏期授業期間中では26℃前後だったが、外気温に近い温度である。
特別教室は、普通教室と同様にあまり使用されていないことから外気温に近い温度である。
しかし、図工室・メディアセンターでは、26℃・27℃という設定温度となっている。


(4) 品川区立小学校比較
品川区立小学校の「昨年度・今年度の7月、8月の消費量」と「昨年度と今年度との変化率」を示す。
●年度別エネルギー消費量比較
台場小学校は、7月では品川区内9番目と上位ではなくなった。省エネ行動実施効果が発揮されたものと考えられる。しかし、8月では2番目と再び上位に入ってしまったが、建替え実施の第三日野は別として上位に差はなかった。
7月・8月の変化率をみると、7月:110%、8月:105%と他の学校と比較すると変化率では、低い数値を示していることから省エネ効果が発揮されたのではないかと考えられる。


■アンケート・ヒアリング調査
台場小学校の教職員、環境学習授業を実施した5年生を対象としたアンケート調査を行った。またデータ回収の際などに教職員の方にヒアリング調査を行った。
(1)第1回教職員向けアンケート
7月中に実施した段階で第1回目の教職員アンケートを行った。
<アンケート内容>
・冷房の設定温度について
・冷房の使用頻度
・冷房使用時間の短縮
・照明をこまめに消したかどうか
・コンセントをこまめにぬいたかどうか
<アンケート結果>
・冷房の温度設定を昨年度25℃だったところを27℃に、26℃のところを28℃になど
1〜2℃上げた。
・冷房の使用を昨年度より抑えた
・普通教室の冷房を30分遅めにつけるようにした。
・照明を昨年度よりこまめに消した。
・電気ポット、シュレッダー、TVなどの電化製品のコンセントをこまめにぬいた。
(2)ヒアリング調査
<夏休みの使用について> 副校長先生・すまいるスクール職員より
▼すまいるスクール(学童保育)
・日曜、祝日以外は活動。
・8:30〜19:00〔職員の出退勤〕
・9:00〜18:00〔児童〕
▼1階幼稚園
・7/20〜8/22 工事中。
▼各普通教室
・補習授業(夏休み前半)
▼その他
・ワールドルーム、オープンスペース、音楽室の貸出。
(3)児童向けアンケート
第2回の環境学習授業の最後に今回の学校省エネ実践の感想をふまえたアンケート調査を実施した。

地球温暖化、ごみ問題に関心がある児童が多かった。


7割近くの児童が省エネ行動に取り組むことができたと回答した。なかでも照明と水に関する項目の回答が多かった。


7割近くの児童が大変だったと回答しており、なかでも冷房に関する省エネが大変だったという回答が多かった。

結果をみて、予想以上だったと回答する児童が最も多く、次に多かったのが省エネ効果を出すことは難しいという回答だった。

照明や水、窓・カーテンに関する項目が多く回答されていた。

9割以上の児童が省エネに対する意識が上がったと回答しており、省エネ活動プログラムが児童の環境意識向上に一定の効果があると考えられる。
(4)第2回教職員向けアンケート
第2回の環境学習授業の後日、教職員を対象に2回目のアンケート調査を行った。なお、この内容は、児童ともリンクする部分もある。
<アンケート内容>
・環境問題で関心のあるもの
・省エネに自らが取り組むことができたか
・省エネを行って、手間だったことはあったか
・今回をきっかけに家庭で省エネを行ったか
・省エネ行動結果を聞いて、どう思ったか
・今後も省エネを続けられそうか
・省エネに対する意識が変わったか
※以上の内容は児童と同じである。
・児童から省エネに関して要望・意見があったか
・省エネ標語ポスターは省エネ行動促進につながったか
・仕事をするにあたり支障はあったか
<アンケート結果>
・児童と同様に地球温暖化に関心の多い方が多い。
・半数以上の方が省エネに取り組むことができたと回答した
・手間と感じたことはあまりなかった。
コンセントをぬくことが手間だったという少数いけんがあった
・児童からは照明に関する省エネの要望が多かったと多くの方が回答した。
・結果をみての感想に関しては、予想以上に大きな効果が出ると感じた方が多かった。
・省エネ標語ポスターは、少し促進につながったと感じた方が多数いた。
・省エネに対する意識の変化は少し上がったという方が多かった。
■効果検証のまとめ
空調(ガス)に関しては、昨年度と比べて猛暑日が多かったことから消費量減少という結果は出せなかったが、室内温度をみると設定温度が1℃上がっていたり、変化がなかったりと冷房の負荷が多くかかったことがわかった。省エネを実施していなかった場合はさらに多く消費していたのではないかと思われえる。
照明・コンセント(電力)に関しては、大きな効果が見られた。年間を通して使われる照明・コンセントの省エネは今回だけでなく、今後も継続をし、更なる省エネ効果を出せるよう取り組んでいきたい。気候などに影響されないことから一つ一つの行動が省エネ効果につながったものと考えられる。
アンケート調査からは、教職員・児童の双方で省エネに取り組んでもらえたことがわかった。教職員だけで行うのではなく、児童も積極的に取り組んでくれたことで教職員の行動につながったものと考えられる。教職員・児童共に省エネに対する意識も向上し、継続可能に向けて一歩前進した。
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