2-6.資源化センター(遮熱シート)

東京都品川区に位置する資源化センターにおいて、
施設は折板屋根に屋根用遮熱シート(冷えルーフ)を施工した。遮熱シートは施工が容易なため、施工期間が短いことが特徴である。そして、シートによる日陰効果により、シート敷設下の表面温度を大幅に低減することができる。調査対象建物の概要、調査対象建物の外観を示す。
 
(1)遮熱シートの特徴と効果
本研究で効果を検証する遮熱シートは、紫外線に強い特殊加工を施した銀色のポリエチレン製シートである。シートには孔120mmが空いてあり、あおり防止および熱のこもり防止の役目を果たしている。そして、シートの開口率は5.6%、折板面とシートの距離は100mmである。
●シートの特徴
・ポリエチレン製のシート
・紫外線に強い特殊加工
・日射は透過しない
・表面には熱量の通気と風による煽り防止の孔があけられている
・取り外し可能で一時的な施工にも適する
●屋外側の効果
・日射を遮り屋根劣化を抑制をし、またひょうやあられ、雨音を軽減
・穴あき形状より空気の流れをつくり、風を通すことによって屋根面の温度上昇を抑制
●室内側の効果
・雨音やひょう等の音の軽減
・シートと屋根の間に空気層ができるため、屋根面の伝導熱流を緩和し室内温度を低減する
・積雪時の天井裏湿度低減効果、室内の結露防止効果

(2)遮熱シートの施工方法
本研究のシートは折板屋根用で、施工方法は専用の金具で屋根を傷めず取り付けることができる。品川区にある資源化センターにおいての実際の施工手順を表示する。仕様はハゼ式タイプである。
 
 
 
(1)計測計画
計測においては「@遮熱シートの有無による折板表面温度の違いを6月から継続的に計測してシナモニHP上に公開すること」と「A屋根へのシート施工前後の室内熱流環境を比較評価すること」を平行して行うことである。シート施工は2段階に分けて実施した。1次施工では屋根面積の15%だけを施工して@の計測を開始し、2次施工では80%を施工することで@の継続とAの評価を行った。施工期間は以下の通りである。
@1次施工期間(15%施工実施):6月5日〜8月16日
A2次施工期間(80%施工実施):8月17日〜現在
表5.3-2に計測項目および計測機器の一覧を示す。

(2)屋外側の計測位置
1次施工時および2次施工時の屋上面平面図を示す。そして屋根面計測位置の詳細図および設置状況の写真を示す。
 


(3)室内側計測位置
室内計測位置の詳細図、熱電対およびグローブ温度の計測位置の詳細を示す。また、室内の計測位置は、屋外屋根面の温度計の位置と合わせて設置している。


(4)計測機器の設置状況
●気象計測器
外気温度、相対湿度、日射量、風速、降雨量など外界気象の計測を行う。計測間隔は10分毎である。
●表面温度計
折板表面にセンサー部分を両面テープで接着し、日射の影響を考慮し銀テープで覆った。折板屋根面の表面温度を10分間隔で計測を行う。
●熱電対(T型)
室内の天井表面温度、室内の空気温度、グローブ温度の計測に使用している。計測間隔は10分毎である。
●長短波収支計
紫外線域〜近赤外線域における日射(短波放射)と遠赤外線域(長波放射)について、上向き放射と下向き放射の測定ができる。今回の計測では地表面から56cm離して計測した。計測間隔は10分毎である。
 
 
(1)外界気象
7/30〜8/19、8/20〜9/2の外界気象を示す。1次施工・2次施工期間内で外界気象の近似している日を選定し、計測データの比較を行う。比較選定日は外気温度と日射量の高い日である。





(2)施工エリアと非施工エリアの比較検証
夏期で最も熱い日で、施工エリアと非施工エリアの長短波の収支量、屋根面の表面温度の比較検証を行う。同日で比較できるため、外界気象の条件が一致しており、正確に評価ができる。
a.選定日の外界気象(8月25日)
夏期の外界気象選定日を8月25日とした。8月25日の外界気象の概要、8月25日の外気温度および相対湿度、風速および日射量を示す。



b.日射反射率の測定
日射反射率の測定を行った。測定対象波長域は可視域〜近赤外線域(300〜2800nm)の範囲である。短波、長波の上下放射量を示す。折板屋根の上向き短波放射量は日中のピーク時には99W/uあり、シートの上向き短波放射量は283W/uであった。長波では、シート有無の差は少なく、ほぼ同等となった。
次に日射が安定している10-15時間の日射反射率を示す。折板の日射反射率が9.2%であり、、遮熱シートは27.9%と高いことがわかった。



c.屋根廻りの表面温度
屋外計測ポイントの折板屋根表面・シート表面・シート下空気温度・シート下折板表面温度の4点は、6月のシート施工以降常時計測を行っている。8月25日の屋根表面温度を示す。
日中のピーク時で折板表面温度を比較すると、シートなしに比べシート下折板表面温度の方が約15低く、シート表面温度では約10℃低いことがわかった。シートの有無によって、折板表面温度が大幅に低減されていることがわかる。また、夜間における比較では、シートなし折板表面温度の方が、低いことがわかる。この結果からシートと折板の間にできる空気層に熱がこもっていると思われる。しかし、差異が少ないことから室内への影響は少ないと考えられる。

(3) 施工前後(1次施工、2次施工)の比較検証
a.比較選定日(8月4日・8月26日)
室内環境の温度比較は、1次施工・2時施工期間内で外界気象の近似している2日を選定し、施工前後で比較検証を行う。比較日は、各期間内で外界気象のデータが近似している8月4日(1次施工)と8月26日(2次施工)を選定した。外界気象の概要、外気温湿度および風速・日射量を示す。

 
 
b.折半屋根廻りの計測結果(折板屋根・天井表面温度および熱流計)
折板屋根・天井表面温度および熱流量の計測結果を示す。日中のピーク時に比較をすると、屋外側の計測値である折板屋根表面温度は1次施工時では64.1度まで達し、2次施工時と比較すると約12.1度の低いことがわかる。また、室内側の天井表面温度および熱流量では、1次施工が40.1度、17.5W/m2であり、表面温度の差異は約3.3度、熱流量では11.5W/m2である。
 
c.室内空気温度の計測結果
高さ別に室内空気温度を示す。施工前後で室内空気温度を比較をすると1次施工時のF.L.+5400が35.2度、F.L.+1800においては35.1度と差異はほぼなかった。2次施工時ではF.L.+5400が33.9度、F.L.+1800は33.3度と、高さ別で差異は見らないものの、シート有無では約2度あった。
 
d.グローブ温度の計測結果
高さ別のグローブ温度を示す。施工前後で室内空気温度を比較をすると1次施工時はF.L.+5400で35.2度、F.L.+1800では34.2度あり、2次施工時ではF.L.+5400が33.9度、F.L.+1800が32.9度である。施工前後で約1度下がっていることがわかる。
 
e.快適環境指数PMV値の比較
グローブ温度の計測データよりス室内の快適環境指数PMV値の算出を行った。算出にあたっては、着衣量を0.6clo、代謝量は室内の軽い事務作業を想定し1.2metとした。以下にPMV値を示す。
日中のピーク時で折板屋根と遮熱シートの0.5の差異を確認し、施工面積を増やしたことで温熱環境は改善されたと思われる.。しかし、PMV値としては+2.0を上回り、快適推奨域から大きく外れている。またゴミ処理施設では室内に大きな開口部があり、常に換気している状態であるため、シートの効果を正確に評価できないと言える。。

シートの日射反射率やシート下部空気の通気なども含めて、シートの効果を詳細に分析するためシート周囲での空気温度・風速・放射量等の熱関係を熱収支によって表し、各要素の影響の検討を行った。
(1)熱収支式に使用した外界気象条件
計算値は、長短波収支計測機にて正味放射量を計測した8月24-30日での期間に限定される。外界気象(外気温湿度・風速・日射量)を示す。


(2)熱収支の算定式
一次元熱収支式を活用し、シート表裏面での熱の流れを示す。 以下に算定式を示す。計算では、シートの伝導熱量は無視しA=0としている。なお、ここではシート穴からの通気は考慮していない。シート下の長波長放射・対流熱伝達率・換気量は式を連立し算出している。それ以下は計測値を当てはめている。実際にシート裏面側の対流熱伝達率αciは時刻とともに変化をしているが、本研究ではその時刻においては固定値として仮定し残りの要素の計算を行う。

(3)熱収支の模式図
8月28日13:00における実測値をあてはめた模式図を示す。遮熱シートでは、252W/m2の熱量を吸収し対流として大気へ逃がしている。このことよりシートの遮蔽効果がわかる。また日射放射量163W/m2の要素も大きく作用していることが上向きの短波長放射からわかる。シート下通気層の熱量削減効果もみられ、シートによる日陰効果と表面からの放射量が大きな低減要素と考えられる。また、シートありの熱流量は、折板屋根に比べて大幅に削減されていることがわかる。二重折板屋根構造の既往研究では、遮蔽材とシートの距離が300mm以上で十分な熱負荷削減効果が得られるとの報告があるが、シートの反射率やシート下の通気層の厚さを変えた場合の遮熱効果への影響については、今後の精査が必要である。

本報告では、遮熱シートを折板屋根に敷設し、室内外の環境改善効果を検証した。シート有無で比較した結果、シートの日射反射率は27.9%あり、通常の折板より高いことがわかった。日射反射効果と日陰効果により、折板の表面温度は大幅に低減されている。また、熱収支の算定からシート下にできる空気層が熱流量の削減効果に寄与すると推察される。室内温度では、シートありの方が日中のピーク時で約2℃低くなっている日もみられ、勤務者が働いているFL1800まで環境改善効果はできたと言える。今後はシートの高さや色彩を変化させ、保温効果や日射反射効果について検討する必要がある。
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