2-1.平塚公園(保水性ブロック)

平塚公園では、A〜Dの4種類の保水性ブロックと遮熱性塗装の試験施工を行った。保水性ブロックAとDは保水力を重視し、保水性ブロックBとDは透水性(水はけ)にも配慮したタイプである。以下に平塚公園写真と施工配置図、保水性ブロック写真を示す。
 

各ブロックの名称と寸法は以下の通りである。遮熱性塗装仕様も合わせて記載する。
A:FUJI230 114×230×60mm/エンテック(株)
B:パルセランU 100×200×60mm/日本パーカライジング(株)
C:MIZHO[ai] 100×200×60mm/エンテック(株)
D:パルセラン 150×300×50mm/日本パーカライジング(株)
E:プライマー+下塗り+ATTSU-9 ROAD(W)ペーブグレー(0.5kg/u)/日本ペイント
保水性ブロックの舗装構造図を示す。ブロックDのみ50mm厚のため、クッション砂の厚さを調整して表面レベルを合わせている。
ブロックの温度センサ取り付けの様子を示す。温度センサは各保水性ブロックの表面(正確には表面から約1cm下の内部)と裏面、遮熱性塗装表面、既存のダスト舗装及びコンクリートの表面に取り付けた。なお、ブロック裏面には熱電対のみ取り付け随時ロガーを接続してデータ回収できるようにし、それ以外のポイントはすべてシナモニの計測システムに組み込み、リアルタイムデータをホームページで表示できるようにしている。

 
平塚公園では、シナモニ計測システムによる連続計測データの分析と、別途ブロック単体や長短波放射計などを用意して夏期代表日に実施した詳細調査のデータ分析を行っている。ここではまずシナモニ計測データによる分析について述べる。
(1) 表面温度変化
シナモニ計測システムによる連続測定データより、晴れが続いた日の表面温度変化と降雨後の表面温度変化のグラフを示す。
晴れが続いているときは日射量とともに各表面温度は急上昇している。日射量がどの日も13時頃から急激に落ちてしまうのは、日射量計の設置場所が日陰に入ってしまったためであり、ブロック施工場所が日影に入るのは夕方近くのもっと遅い時刻である。乾燥時の保水性ブロックは、Cを除いてどれも表面温度が52℃前後まで上がり、ダスト舗装やコンクリートとほとんど変わらないレベルである。保水性ブロックCのみ、乾燥時でも他のブロックよりも8℃前後低いが、これはCが最も白色に近いことが影響していると考えられる。

晴れが続いた日の表面温度変化

降雨後の表面温度変化
 
晴れが続いた日の温度差(各舗装材表面温度-気温)変化(左:保水性ブロックA 右:コンクリートとダスト舗装)
 
降雨後の温度差(各舗装材表面温度-気温)変化(左:保水性ブロックA 右:コンクリートとダスト舗装)
(2) 裏面温度変化
各保水性ブロックの8/17〜19の表面温度と裏面温度の変化グラフを示す。裏面温度は、あらかじめ施工時にブロックとクッション砂の間に熱電対を設置してあり、夏期の詳細計測時にこの熱電対にデータロガーをつないで計測している。グラフの期間は8/17の夜から夜中にかけて降雨があった期間である。
これを見ると、どのブロックも表面温度が上昇するとともに裏面温度も上昇しているが、ブロックの熱容量によって、表面温度の上昇に比べて1時間ほど時間遅れが生じている。また保水状態のブロックの裏面温度は、気温とほとんど変わらない温度レベルを示している。ブロックの種類で比べると、透水性にも配慮したブロックB、Cは降雨当日から表面温度が43〜46℃程度まで上昇しているのに合わせ、裏面温度も36℃前後まで上昇している一方、保水力の大きいブロックA、Dは、昼のピーク時でも裏面温度は気温と同じか低いレベルに抑えられている。この日中の温度差の影響もあり、夜間の表面温度及び裏面温度とも、ブロックA、Dは気温よりも数℃低くなっていることが分かる。ブロックB、Cもコンクリートよりは低くなっており、ヒートアイランド対策技術として熱帯夜の抑制にも効果的であると言える。

ブロックA

ブロックB

ブロックC

ブロックD
夏期詳細実測調査は、8月21日から23日にかけて実施した。施工された保水性ブロックと同じタイプの単体ブロック4種類と、二葉すこやか園で施工された保水性土舗装のサンプルを作ったものに表面温度センサー(10分間隔)をつけ、重量も30分おきに量った。またその際、施工ブロックの長短波放射計による放射量測定(10分間隔)、熱画像の撮影(30分間隔)も行った。保水性土舗装の仕様については2-3の二葉すこやか園の項で詳述する。以下に夏期詳細実測の概要、詳細実測期間の気象データ、実測の様子を示す。


 
(1) ブロック・舗装材単体サンプルの表面温度変化
詳細実測調査の3日間では保水性ブロック及び保水性土舗装の単体サンプルに対して、8月21日に降水量2mm相当、22日に5mm相当の散水(保水)を行い、23日には満保水の状態にして実測を行った。
降水量2mm相当時の温度変化を示す。まず散水は朝10時に実施した。全般的に見ると、保水性土舗装、保水性ブロックA、D、C、Bの順に温度上昇抑制効果が高い結果となったが、13時頃からは日射量の影響により温度が上がり、差はほとんど見られなくなっている。2mm相当では温度を抑制するまでにならず、14時頃には表面温度が42〜44℃になってしまったため、15時に2度目の散水を行った。この打ち水の実施によって、どのブロックも温度が10分間で約4℃低下しする結果となった。降水量2mm、あるいはこれと同等量の打ち水を実施した場合は、朝だけでなく夕方頃に再び打ち水を実施することが、夕涼み効果にも有効であると考えられる。
次に、降水量5mm相当時の温度変化を示す。散水は朝9:30に実施した。5mm相当時では、やはり2mm相当時よりも大きく表面温度が抑えられていることが分かる。13時から15時にかけても、保水性土舗装、A、D、C、Bの順に温度抑制効果が見られており、中でも保水力を重視しているブロックA,Dの方が温度低減効果も大きい。同時に計測したインターロッキングブロック表面温度はピーク時で約47℃まで上昇したが、保水性ブロックでは4℃〜10℃程度温度が低く抑えられており、保水性土舗装では13〜14℃も低く抑えられている結果となった。保水性土舗装は14:30頃には気温よりも低くなり、蒸発冷却による効果が最も大きいと言える。
最後に満保水時の温度変化を示す。散水は朝9:30に実施した。この日は昼前頃にいったん曇ったこともあって前2日間よりも若干気温・日射量ともに低い日であったが、どの単体ブロックも表面温度が40℃を超えない結果であった。
以上の3日間を比べると、降水量に限らず効果の大きさはブロック・舗装材による特徴が現れているが、夏期の晴天時のコンクリート表面温度が50℃以上になることを考えると、降水量2mmか同等量の打ち水でも一次的な効果は見られ、5mm以上程度であれば温度低減効果は終日持続することが期待できると言える。

降水量2mm相当時の単体表面温度変化(8/21)

降水量5mm相当時の単体表面温度変化(8/22)

満保水時の単体表面温度変化(8/23)
(2) ブロック・舗装材単体サンプルの保水率変化
ブロック・舗装材単体サンプルの保水率変化を見るため、まずは30分ごとに電子天秤(A&D HW-10KGL)を用いて各サンプルの重量変化を記録した。電子天秤の秤量は10kg、最小計量単位は1gである。その結果を日別に以下に示す。単体サンプル自体の重量が異なるためグラフ上での重量変化は分かりにくいが、時刻とともに水分が蒸発して重量が軽くなっていく様子が分かる。
この重量変化の結果をもとに保水率(=測定時の保水量/満保水時の保水量)を算出してその変化を日別に表したグラフを以下に示す。なお、保水量の計算にあたっては、長期間室内で放置したのちの冬期にブロックを計量した数値を乾燥時重量として、この差を保水量として算定した。
降水量2mm相当時では、散水直後は保水率30〜50%程度であり、その後は時間とともに下がり続け、15時頃にはどのサンプルも10ポイントほど下がった。またこの保水率低下に合わせて表面温度は上昇している。
降水量5mm相当時では、保水性ブロックAは保水時に少しこぼれてしまったため保水率が上がりきらなかったが、Aを除いてはどのブロックも70%程度の保水率になった。表面温度も降水量2mm相当時よりもゆっくり下がる傾向が見られる。
満保水時では、保水直後の30分程度で保水性ブロックBとCは10ポイント以上の低下が見られた。これは、ブロックBとCは透水性を重視しているため保水力が比較的弱く、一気に蒸発したためと思われる。11時から12時にかけては曇っていたためその時間帯は保水率があまり下がらなかった。しかしその後は晴れて気温も上昇したため、13時から15時にかけては蒸発も進んで保水率も大きく低下していることが分かる。朝の満保水状態では20時の時点でも保水率70〜80%を維持できており、2、3日は温度抑制が期待できると考えられる。
 
降水量2mm相当時の単体重量変化(8/21)
 
降水量5mm相当時の単体重量変化(8/22)
 
満保水時の単体重量変化(8/23)

降水量2mm相当時の保水率変化(8/21)

降水量5mm相当時の保水率変化(8/22)

満保水時の保水率変化(8/23)
以下に単体サンプルごとに表面温度と保水率の変化をまとめたグラフを示す。
保水性ブロックAは、水分を放出して保水率を下げながら表面温度を抑制している様子が良く分かる。降水量5mm相当時に水が少しこぼれたため降水量2mm時と保水率は30%前後であまり変わっていないが、保水率が32〜33%程度あれば、温度上昇抑制効果は発揮されると言える。満保水時では20時時点でも72%前後の保水率を維持しており、2、3日は効果が持続することが推測される。
保水性ブロックB、Cは似たような傾向であり、ブロックAほどの低減効果はないが、保水量が上がるにつれて温度低減効果が大きくなっている。ただ、満保水時に最初の30分程度でどちらも保水率が急激に減少しているのも、これら透水性を重視しているブロックの特徴と言える。
保水性ブロックDはAと同レベルの温度低減効果を示している。保水性土舗装はどの保水性ブロックよりも低減効果は大きく、降水量5mm相当以上の保水があれば、ほぼ気温と同レベルまで表面温度を抑えることができている。また保水率の変化より、3日以上は温度低減効果が続くことが推察される。

保水性ブロックAの保水率変化

保水性ブロックBの保水率変化

保水性ブロックCの保水率変化

保水性ブロックDの保水率変化

保水性土舗装の保水率変化
(3) 単位面積当たりの水分蒸発量変化
30分ごとに計量した単体サンプル重量と各ブロックの乾燥時重量との差を水分蒸発量とし、1uあたりに換算した水分蒸発量変化を示す。表面温度も合わせて掲載してある。横の行に日付(保水量の違い)、縦の列に単体サンプルの種類を並べて表現している。
これを見ると、蒸発量の大きさによって温度上昇が影響を受けていることが分かる。21日では、朝から昼頃までは水分蒸発とともに温度上昇を抑制していたが午後にはほとんど効かなくなり、15時に再度散水をして再び温度低減効果が発揮されている。
23日の満保水時に着目すると、ブロックA、D、保水性土舗装がコンスタントに蒸発しながら温度上昇を抑制しているのに比べて、ブロックB、Cは保水直後に大量に蒸発した後、蒸発量が少なくなり、結果として温度上昇抑制効果が相対的に小さくなっている。ただ、コンクリートなどと比較すると少なくても15℃程度の低減が見られ、ヒートアイランド対策技術として効果を発揮していると言える。

(4) 長短波放射量変化
8月21日から23日の9:00〜20:00(21日は10時から、23日保水性ブロックAは17:30まで)に計測した長短波放射量の変化グラフを示す。計測は、長短波放射量計にKipp&Zonen製のCNR-1、及び英弘精機製のMR-50(両社は同型機)の2台を使用し、それぞれにデータロガー(江藤電気製のサーミック)を接続して行った。8/21は既存ダスト舗装と保水性ブロックA、8/22は既存インターロッキングブロックと保水性ブロックD、8/23は保水性ブロックAと保水性ブロックBの計測を行った。
これらの計測結果をもとに、アルベド及び舗装材の熱収支の算定・評価を行った。
 
長短波放射量変化(8/21 左:ダスト舗装 右:保水性ブロックA)
 
長短波放射量変化(8/22 左:インターロッキングブロック 右:保水性ブロックD)
 
長短波放射量変化(8/23 左:保水性ブロックA 右:保水性ブロックB)
(5) アルべド(地表面反射率)変化
前項のグラフに掲載した、10分間隔の上向き、下向きの長短波放射量変化データを使用して、各時刻のアルベド(地表面反射率=上向き短波長放射量/下向き短波長放射量)を算定し、その変化グラフを作成した。日射量とアルベドの変化グラフを日別にまとめたものを図5.1-31〜33に示す。なお、保水性ブロックや土舗装は、種類によっては保水させると乾燥時に比べて色が濃くなる傾向が見られ、色が変わるとアルベド値にも違いが現れる。本計測期間ではどの日も朝に保水させているため、算定結果はほぼどの時間帯も保水時の色のアルベドと見なして良いと思われる。
 
日射量とアルベド変化(8/21 左:ダスト舗装 右:保水性ブロックA)
 
日射量とアルベド変化(8/22 左:インターロッキングブロック 右:保水性ブロックD)
 
日射量とアルベド変化(8/23 左:保水性ブロックA 右:保水性ブロックB)
これらのグラフを見ると、少し曇った時間帯もあった8/23のアルベド値はやや安定性に欠けるが、8/21と8/22は概ね安定した算出結果となった。また、アルべドが落ち着いているところの平均をとった平均アルベドの算定結果と、「建築環境工学」の書籍より引用した一般的な地表面のアルベド値を以下に示す。
ダスト舗装が約9%と最もアルベドが小さく、短波長放射を吸収しやすい仕上げと言える。保水性ブロックの中ではAが15%前後と最もアルベドが小さい結果となったが、これは、保水時に最も色が濃く変わることが影響していると思われる。表面に釉薬が塗布してあって光沢のあるブロックBが、25%と最も高いアルベド値となった。
但し、これらアルベドの結果と前述の表面温度変化を合わせて考察すると、アルベドの高さよりも蒸発冷却による温度低減効果の方が大きいことが分かる。


(6) 熱収支による評価
長短波放射量の実測データとシナモニ計測データを用いて、熱収支算定式を用いて正味放射量、顕熱流、潜熱流、伝導熱流を算出し、保水性ブロックA、B、Dの熱収支を算定した。
これを見ると、保水力の高いブロックAやDは、Bよりも潜熱流が大きく、顕熱流が抑制されていることがわかる。既往研究データによると、普通コンクリートやアスファルトは顕熱流が最大200〜400W/u程度と今回実測した保水性ブロックに比べてかなり大きく、保水性ブロックの温度上昇抑制効果が現れていると言える。
 
保水性ブロックA(8/21) 保水性ブロックD(8/22)
 
保水性ブロックA(8/23) 保水性ブロックB(8/23)
(7) 蒸発効率による評価
保水性ブロックの蒸発特性評価の一指標として、各保水性ブロックの蒸発効率を算出した。日射量低下とともに蒸発効率も下がっているが、保水性ブロックAを見ると、午前中は変動が激しいが15:00〜19:00頃で0.3〜0.4を維持している。これは、既往研究で保水性舗装(車道用)が0.1〜0.2という算定結果と比較しても、高い蒸発効率であると言える。ブロックDはAより若干小さく、透水性重視のブロックBは、14時以降はほぼ0となっている。
  保水性ブロックA(8/21) 保水性ブロックD(8/22)
  保水性ブロックA(8/23) 保水性ブロックB(8/23)
(8) 熱画像データの分析
平塚公園全体の地表面の熱環境を評価するために、公園の熱画像データの分析を行った。既設インターロッキングブロック(ILB)と保水性ブロックDの1時間おきの熱画像を示す。9:45頃に散水して撮影を開始した。散水によりILBは約36℃、Dは約33℃まで低下したが、散水を行っていない部分のILBは10時前から約42℃であり、散水の効果も約2時間しか持続していない。撮影場所は14時頃から日陰に入ったが、20時でも約3℃の違いが見られた。

  
  
  
  
保水性ブロックとダスト舗装・コンクリートの1時間おきの熱画像を示す。舗装材の道路寄りの部分(画像の右端部分)のみに9:45頃に散水を行った。10:00から13:00までの時間帯を見ると、この散水した部分の温度が4〜7℃程度下がっており、蒸発冷却効果が現れている。
14:00以降の時間帯では公園が日影に入るため全体的に午前中よりも温度は下がっているが、ダスト舗装及びコンクリートは50℃近い高温となっており、逆にブロックではA、Dの温度が低くなっていることが分かる。コンクリート表面は20時の時点でも約33℃あり、日中の蓄熱が熱帯夜の原因となっていることが予測される一方で、ブロックAやDは26℃前後まで下がり、温度低減効果が現れていることが分かる。
  
  
  
 







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